二期会オペレッタ公演『天国と地獄』(日生劇場)を観る

●2019年11月24日(日)、日生劇場で、二期会オペレッタ公演『天国と地獄』を観た。チラシには「全編が心躍る音楽と風刺の精神、笑いに満ちた、底抜けに明るいオペレッタを日本語上演‼」とあり、総論としては「その通り!」の楽しい公演であった。ただ、いくつかの点で笑えないどころか違和感を感じる場面もあって複雑な思い。この記事を書くのが遅くなったのも、それが主たる理由である。

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●『天国と地獄』の音楽(の一部)は、あまりに有名だ。運動会の徒競走の時に必ずかかる曲であり、文明堂のカステラのコマーシャルソング(♪カステラ一番、電話は二番、三時のおやつは文明堂)でご存知の方も多かろう。しかし、オペレッタ作品として通しで観たり聴いたりした人は意外に少ないかも知れない。そういう私もその一人であった。

●『天国と地獄』はギリシャ神話の「オルフェウス伝説」のパロディである。竪琴の名手はヴァイリン教師となり、固い絆で結ばれ仲睦まじい夫婦はお互いに浮気の機会を伺う倦怠期の夫婦となる。ギリシャ神話ではオルフェが妻を取り戻しに黄泉の国に下るのは純粋な愛によるものだが、『天国と地獄』では内心では妻の死を喜びながらも「世論」の意見を気にして心ならずも・・・ということになる。

●ここで、今日の出演者を確認しておこう(敬称略)。

指揮:大植英次
演出:鵜山仁

プルート:渡邉公威
ジュピター:三戸大久
オルフェ:山本耕平
ジョン・スティクス:相山潤平
マーキュリー:児玉和弘
バッカス:志村文彦
マルス:的場正剛
ユリディス:高橋維
ダイアナ:廣森彩
世論:塩崎めぐみ
ヴィーナス:中野瑠璃子
キューピッド:熊田アルベルト彩乃
ジュノー:三本久美子
ミネルヴァ:吉田愼知子

合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

●鵜山仁氏の演出は、とても小気味よい。カラフルな舞台、面白い仕掛け、天球儀の座標を巧みに利用する趣向も秀逸だ。ジュピターがハエに変身してユリディスの部屋の中に鍵穴から侵入する場面など、あっと驚くアイデアが次々と登場し観客を楽しませる。台詞(せりふ)もユニークだ。古文のように格調高かったり、たおやかな京都弁だったり、あるいは気風(きっぷ)が良いべらんめえ調だったりと変幻自在。しかもその台詞には気の利いたユーモアが溢れ、これらの台詞がポンポンとテンポ良く繰り出されながら物語は展開していく。演劇性を力点を置いた演出と言えようが、もちろん歌との関係も全く破綻なく実に見事な進行。このオペレッタ作品の魅力を倍増、三倍増にもしたといった印象を強く受けた。

●出演者の健闘も光る。歌唱はもちろん素晴らしいが、それだけではない。台詞回しはもとより、身振り手振り顔の表情に至るまで、レベルの高い表現力を求められ、全員がこれに十二分に応えていた。何よりも楽しそうに演じているのが一番良い。その楽しさが観客にダイレクトに伝わってきた。

●もちろん、オーケストラも出演者を確りとサポート。歯切れよくリズミカルな演奏が素晴らしかった。

●そして、最後は冒頭で述べた「違和感」について。私が違和感を持った場面は主として二つ。

●一つ目は天国でジュピターが「天国の神様は一人残らず日本生命(に入っている)」と言う所。会場が日生劇場なので(共催がニッセイ文化振興財団)、会場は大うけ。でもさすがにこれはまずい。二期会の法人賛助会員の第一生命に対してあまりに礼を欠いている(因みに日本生命本体は賛助会員ではない)。後日、二期会に電話で確認したところ、これは台本にはない出演者のアドリブとのこと。自分が所属する団体の法人賛助会員へ全く気配りができない発言者の無神経さには驚くばかりだが(もちろん悪意がないのは承知している)、いくら千秋楽といってもアドリブを許してしまった演出サイドにも責任があると思う。

●二つ目は天国の神々が地獄に向かう所。神々はジュピターが運転するバスに乗って移動するような動作をする。ここでジュピターは前を走る車を煽り、さらに車を降りて文句をつけるような仕草。確かに今マスコミを賑わす煽り運転を採り上げるのは話題性と言う点ではタイムリーだが、悲惨な事故も起きていることをも考えれば、こういう茶化す態度は余りに想像力を欠き、悪ふざけの度が過ぎる。厳しい批判があって当然だ。どうもこれを出演者のアドリブとのことだが、本人および演出サイド双方にもう少し配慮を期待したかった。

●今日の公演は、演出も歌唱も演技もオーケストラの演奏も総じて素晴らしく、オペレッタの楽しさを十二分に満喫できるものであった。ただ、上記の違和感だけが非常に残念であり、少々後味が悪いものになった。芸術表現に自由は大前提であることは言うまでもないが、個人ではなく、二期会として公演を行う以上、適切なマネジメントが必要であると強く感じることとなった。

以上





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