横滑ナナ 舞踏ソロ公演『ひやおろし』を観る(中野テルプシコール)

●2019年10月20日(日)、中野テルプシコールで、横滑ナナさんの舞踏ソロ公演『ひやおろし』を観た。凝縮された濃密な時間の流れを体感する非日常の世界。まさに舞踏の醍醐味と言うべきか。若干の心地よい疲労を感じるほどの見応えある公演であった。

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●チラシによれば、「ひやおろし」とは、蔵ごとに手塩にかけて育てられる秋に味わう芳醇な日本酒のことで、冬に仕上がった新酒を春先、芳しく保つために火入れして大桶に貯蔵し、暑い夏を静かに冷ややかな蔵で眠らせる。外気と蔵との気温が同じくらいになった頃、眠りから冷ますように大桶を開け樽に卸して開け頂く。とのこと。

●そう、そうなのだ。今回の舞踏は、何と横滑ナナさん自身が「お酒」となり、じっと時の経過を待ち、そして最後には大桶から出て人前に姿を現すまでを表現する稀有な試みなのだ。「ひやおろし」の擬人化。あるいは日本酒版の「眠り姫」の物語と言ってよい。しかも限りなくユニークな。

<演技の様子>

●演技は、全くの無音の中、天井からの微かなライトを受け、白い衣装に身を包み、舞台中央で向こう向きに身体(からだ)を縮め横たわる場面から始まる。この後、ヒューともゴーンともキンコーンとも聴こえる音が鳴り出すが、小刻みな震えを除けば、殆ど動きはない。息を詰めてじっと見つめる観客たち。

●そして、音が大きくなるにつれ、手足の動きが目立ってくる。ふと気づくと、正面の壁には身体の影がくっきり映っている。上半身をやや起こし両手両足を同時に動かすさまは、あたかも宙に浮いているかのよう。決して大げさではない。

●ライトの方向も種々変化し、身体(からだ)の微妙な動きを照らし出していく。時折こちらに向ける白塗りの顔は、無表情に見えたかと思うと、はっとするようなあどけなさが現れたりもする。身体(からだ)の動きは小さいが、全身に力が入り、手先足先まで神経が行き渡っているのが見ている側からも良く分かる。

●会場に鳴り響く音は、次第にカラーンカラーンとも聴こえてきた。時を刻む自然のリズムなのか。身体(からだ)の動きはより顕著になって、何か起き上がるきっかけを掴もうとする気配が感じられるが、なかなか上手くいかない。まだ時が熟していないのだろうか。「眠り姫」はなかなか眠りから覚めない。

●ここで一旦、音が止むが、続いて旋律らしきもの聴こえる曲(?)が始まり、これが何度も反復する。するとゆっくりゆっくり上半身を上げていき、ついには立ち上がる。何か驚いたような表情を浮かべながら。そしておもむろに周囲を見渡しつつ、今度はきりりとした眼差しで少しずつ後ずさりし、舞台奥左手(客席から見て)のドアに向かっていく。ここで終わりかと思ったら、大きく裏切られた。

●ハアーで始まる民謡や酒造りの作業歌が朗々と流れる中、そしてノイズ音のような音楽(?)が響き渡る中、床を転げ回ったり、手足を大きく伸ばしたり。音楽が止むと、上方からのライトを顔と両掌(りょうてのひら)でしっかり受け止めた後、正面の壁の前にすっくと立ち、全身で光を浴びながら舞台の前方まで歩み寄る。ここで暗転。

●私は、てっきりここで終わりだと思ったが、まだ続きがあった。それも驚くべき内容の。音楽の調子も変わり明るささえ感じられる中で、舞台右手(客席から見て)から、蝶をかたどった大きな髪飾り(殆ど帽子か)を付け、白い羽織を着た姿で登場したのだ。会場の雰囲気は一変する。顔の表情もさっきまでとは異なり穏やかに見える。身体の動き自体は大きくはない。ピュアで静かで自然体の舞といった趣(おもむき)。そしてそっと会場の出入口から姿を消す。実に見事なエンディングであった。

<今日感じたこと>

●冒頭で、今日の公演は「ひやおろし」の擬人化であり、日本酒版の「眠り姫」と述べたが、決してそれに止(とど)まらない。横滑ナナさんが悩み、試行錯誤し、葛藤しながら長年歩んできた自身の「舞踏の軌跡」ではないだろうか。そう考えると最後の場面は大変興味深い。吹っ切れ、あるいは突き抜けた後に到達した「彼岸」なのだろうか。

●もしそうだとすると少し嬉しい気持ちになるが、まだ彼女は50歳ほど。この後も更に舞踏の旅は続くのだろう。こちらの期待も大きく楽しみだ。彼女の舞踏は、彼女自身の旅であるとともに、観る者の心を映す鏡でもある。はたしてどこを目指して行くのかは全く予想できないが、これからも立ち会っていきたいと思う。

●今日は、彼女の師匠である大森政秀氏も客席におられた。今日の演技は、大森政秀氏の舞踏から感じられる「重さを極めた先の軽さ」にも通じるものがあるように思われた。

以上

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