二期会オペラ公演『清教徒』(演奏会形式)に行く

●2019年9月1日(日)、横浜みなとみらいホールで開催された、二期会のオペラ公演『清教徒』に行った。私はこのオペラを生で聴くのは初めて。もちろんヒロインの狂乱の場は最大の聴かせどころだが、それだけでなく、ドラマを進めるうえで重要な重唱や、まるでギリシャ演劇のコロスのようにソロや重唱に寄り添う合唱も実に素晴らしい。演奏会形式なので演出を気にすることもなく、ベッリーニの華麗な音楽に集中し、心から満喫することとなった。

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●この物語の舞台はイギリス。クロムウェルによる清教徒革命(1642~1652)の時代。この有名な史実を背景にしつつも、基本は男女の愛と苦悩を描いたもの。清教徒派のヴァルトン卿の娘エルヴィーラは、父が決めた婚約者リッカルド(清教徒派)ではなく、王党派の騎士アルトゥーロを愛している。伯父のジョルジォの説得により漸く結婚を許され喜び合う二人。ところがエンリケッタという貴婦人が現れると、アルトゥ―ロは花嫁のヴェールを彼女に被せ、一緒に姿を消してしまう。エンリケッタは処刑されたチャールズ1世の未亡人なので命の危険が迫っていたのだ。しかし、事情を知らないエルヴィーラは裏切られたと思い込み、悲しみのあまり正気を失ってしまう。さて、二人の運命やいかに。といったストーリー。

●ここで今日のメンバーを確認しておこう(敬称略)。

指揮:森内剛
エルヴィーラ:幸田浩子
アルトゥーロ:大澤一彰
リッカルド:甲斐栄次郎
ジョルジォ:ジョン・ハオ
ヴァルトン卿:峰茂樹
エンリケッタ:加藤のぞみ
ブルーノ:伊藤達人
合唱:二期会合唱団
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団

●演奏会形式といっても、最近は映像を投影したり、出演者が舞台衣装を着たり、小道具を使ったりといった「演出」も多いが、今回はオーソドックスな演奏会形式。だから舞台は至ってシンプルだ。舞台手前からオーケストラ、ソリスト、合唱団という順で並ぶ。衣装面では、男性ソリスト、合唱、オーケストラの楽団員は皆白黒なので、目に鮮やかな色彩と言えば、エルヴィーラ役とエンリケッタ役のドレスだけ。それゆえ、観客は否が応でも、一音たりとも聴き逃すまいと音楽そのものと真正面に対峙することになる。

●『清教徒』はベッリーニ最後のオペラ。その音楽は例えようもなく優美だが、単に優美というものではなく、なぜか心が躍るような高揚感を湧き起こすもの。冒頭で触れたように、ソロ部分だけでなく、合唱、重唱(二重唱~五重唱)、そしてオーケストラが各々大きな役割を担っている。合唱は言わばナレーターとしてドラマの背景や状況、天の声や民の声、登場人物の内面の声などを観客に示し、重唱は個々の対話によって具体的なストーリーを紡いでいく。そしてソロはここぞという所で個々の登場人物の感情を赤裸々に表現する。そして、ドラマのフレームとして、これらを常に支えるのがオーケストラという構図。純粋な演奏会形式だからこそ、これが不思議なほど良く分かる。

●歌手陣では、やはり何と言ってもエルヴィーラ役の幸田浩子さんが圧巻の歌唱。さすが日本を代表するソプラノのお一人。美しくよく通る美声は重唱でも一際輝き、そして第二幕の狂乱の場では卓越したテクニックと演技力を惜しげもなく披露した。いつも変わらぬ容姿の愛らしさも魅力的だ。エンリケッタ役の加藤のぞみさんは今注目のメゾ・ソプラノ。精悍で硬派なイメージ漂う美形。シャープで切れ味鋭い歌いっぷりに驚嘆する。男性では、リッカルド役の甲斐栄次郎さんが敵役として難しい役割を見事に演じ、ジョルジォ役のジョン・ハオも幕が進むにつれ調子を上げ存在感を示した。アルトゥーロ役の大澤一彰さんも大熱演。ただ、高音の一部で声が通らず平面的な響きになってしまったのは残念。調子が万全ではなかったのだろうか。このほか、ヴァルトン役の峰茂樹さん、ブルーノ役の伊藤達人さんも期待を裏切らない好演であった。

●二期会合唱団(32名)はとても素晴らしい。奥行きが深くドラマチックでメリハリあるパフォーマンス。今日の公演成功への貢献度は非常に大きい。

●森内剛さん指揮する神奈川フィルハーモニー管弦楽団の演奏にも満足した。流麗で歯切れよく耳に心地よい演奏で観客を大いに楽しませた。

以上

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