馬場ひかりダンスプロジェクト公演『胞衣ENA』を観る

●2019年7月29日(月)、俳優座劇場(六本木)で、馬場ひかりダンスプロジェクト公演『胞衣ENA』を観た。馬場ひかりさんは、現代舞踊界を代表する振付家/舞踊家のお一人。期待に違わぬ素晴らしい公演であった。濃密で緊張感に満ち、そして何より美しく魅惑的な「馬場ひかりワールド」が立ち現れる。50分間が一瞬とも永遠とも感じられる不思議な時間の流れの中で、ただ身を任せる至福の体験となった。

B 馬場ひかり 胞衣.jpg

●まずは、メンバーを確認しておこう(敬称略)。

演出・構成・振付:馬場ひかり
出演:手塚多希、山崎則子、小栗百子、桜井矢絵、丸山はるか、
   髙橋郁、曲沼宏美、馬場ひかり
衣装・美術:本柳里美、岩戸洋一
照明:斎藤 香
音響:渋木正己

●タイトルの『胞衣ENA』とは胎児を包んでいる膜・胎盤のこと。本公演では、より広く「命の入れ物」という意味で使っている。当初は、群舞である『胞衣ENA』と、馬場ひかりさんのソロである『LAMENT』との二つの作品を上演する予定だったが(事前チラシの記載)、制作の過程で一体化し一つの作品になったとのこと(当日配布プログラム)。

●地球に生命が誕生して40億年。胎児は最初の生命から人間の誕生までの記憶を持ち、胞衣の中で40億年の夢を見る。これが本作品のコンセプト(当日配布プログラム)。何というスケールの大きさ。思わず、中学生の時に生物の授業で習った「個体発生は系統発生を繰り返す」というヘッケルの反復説や、映画「2001年宇宙の旅」のラストシーンで登場する「スター・チャイルド」を連想してしまう。

●この壮大なドラマを舞踊と言う形で表現しようと試みるだけでも凄いが、それを実際にやり遂げてしまうところは「さすが」としか言いようがない。

●作品は「真空の月」「40億年のまなざし」「原郷の海」の三部から構成される。これらは連続して演じられるので、一つの作品として全く違和感は無い。いや、それどころか「変化」が大きな魅力でもある。

●最初の「真空の月」は馬場ひかりさんのソロ。ただならぬ雰囲気の中、柔らかくも緊張感に溢れ、手先足先まで神経の行き届いた一切無駄のない見事な動きに圧倒される。次の「40億年のまなざし」では群舞がメインで途中に馬場ひかりさんのソロも挿入される。一人ひとりの振りは種々異なっていても全体として統一感ある生き生きとした動きとなる群舞は見ていてとても心地よい。床での「うごめき」から次第に仕草が大きくなって行く様(さま)は、まさに生命の進化の早回し。そして極めつけは、7人が一列に並んで示した原始生物からサルを経てヒトに至る「進化の一覧図」。群舞の間で披露される馬場ひかりさんのソロ部分も力強さが増した印象。そして最後の「原郷の海」は再び馬場ひかりさんの渾身のソロ。ドイツ語で歌われる曲(細川俊夫作曲「嘆き」)をバックに、苦し気とも悲し気とも恍惚とも悟りとも見えるような複雑な表情を浮かべつつ、切れ味鋭く踊る。地球に生を受け、やがて死んでいく全ての生き物たちの思いを文字通り「体現」しているのだろうか。まさに荘厳で神聖な舞いだ。

●音響・音楽面でも実に綿密に考えられていた。上記のドイツ語の歌「嘆き」はもとより、弦楽器による緊迫感ある旋律、鼓動が早まるような打楽器の連打、不安を感じさせるようなノイズ音などが、各所各所で効果的に使われる。開演前と終演間際に聴こえた「水音」もとても印象的であった。

●さて、そろそろまとめに入ろう。馬場ひかりさんが創り出す世界は奥が深い。舞踊は、大胆さと繊細さ、柔軟さと強靭さ、静と動が共存し、補完し合い、時に競い合う絶妙のバランス。そして、その舞踊が表現しようとするものは、宇宙であり、生命である。もちろん、これらは「馬場ひかりワールド」の従来からの魅力だが、今日の公演を観て、それがさらに一歩も二歩も進んだように感じられた。「ひかりさん、そこまでやるの?」という感じ。彼女の師匠である芙二三枝子さんが亡くなって一年数か月。もしかしたら、これを新たな出発点として、一つギアが上がったのかも知れない。馬場ひかりさんはどこへ行こうとしているのか。楽しみでもあり、少しハラハラもしている。観客の私は必死でついていくしかない。

以上

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