北とぴあ国際音楽祭2019オペラ公演『リナルド』を観る

●2019年12月1日(日)、北とぴあ・さくらホールで、ヘンデル作曲のオペラ『リナルド』を観た。本公演は。北区文化振興財団が主催(北区及び同区教育員会が共催)する北とぴあ国際音楽祭2019の一連の企画の中の最大の目玉とされるイベント。歌唱、管弦楽、そして演出の全てのクオリティが高い素晴らしい公演であった。今日は、バロック・オペラの魅力に浸りきるとても贅沢な時間を過ごすことができて、本当に嬉しい。

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●まずは、ストーリーをごく簡単にご紹介しておこう。時代は中世の11世紀末。聖都エルサレムはサラセンの支配下にある。十字軍はこれを奪還すべく包囲しているが守りは固くなかなか攻め落とせない。こうした中、十字軍は最後の切り札として若き英雄リナルドに期待をかけるが、一方の敵将エルサレム王アルガンテは一計を案じ、一時休戦を申し入れた。すると、この間にアルガンテの盟友にして恋仲の魔女アルミーダは、リナルドをおびき寄せようと十字軍の総大将ゴッフレードの娘であるアルミレーナをさらってしまう。彼女はリナルドの婚約者なのだ。彼女を追うリナルドはまんまとアルミーダに捕えられてしまう。ところが、リナルドを一目見たアルミーダは彼に心を奪われ、アルミレーナに変身して彼を誘惑。さらにアルミレーナが気に入ったアルガンテが、偽のアルミレーナを口説きだし、アルミーダとアルガンテの関係は険悪なことに。はたして、リナルドとアルミレーナは無事助け出されるのか、聖都エルサレムは奪還できるのか、と言った感じで、4人の愛憎関係を軸に物語は展開していく。

●続いて今日のメンバーを確認しておく(敬称略)。

指揮・ヴァイオリン:寺神戸亮
管弦楽:レ・ボレアード
演出:佐藤美晴

リナルド:クリント・ファン・デァ・リンデ
アルミレーナ:フランチェスカ・ロンバルディ・マッズーリ
アルミーダ:湯川亜也子
アルガンテ:フルヴィオ・ベッティーニ
ゴッフレード:布施奈緒子
エウスターツィオ:中嶋俊晴
魔法使い/使者:ヨナタン・ド・クースター
シレーネ:澤江衣里、望月万里亜
助演:打越麗子、加藤典子、敷地理

●それでは、演出、歌唱、指揮・管弦楽について見ていこう。

<演出>

◇佐藤美晴さんは将来を嘱望される新進気鋭の演出家。今回の演出も非常にクリアで切れ味が鋭くエキサイティングだ。本公演の演奏形式はフル・オペラではなく、オーケストラが舞台に載る「セミ・ステージ形式」。本来であれば、演出の役割は小さいはずなのだが、今回は全く印象が異なり、「制約」があるからこそ演出表現がより際立つとでも言うべきか。

◇今回のキー・アイテムは「鏡」だ。舞台上でまず目を引くのは大きく傾いた巨大(4~5m×6~7mほど)な鏡。しかも鏡部分の大半が割れ落ち殆ど額縁だけの状態。舞台床には大小の割れた鏡の破片が散乱している。まるで戦いの後の戦場のよう。登場人物がこの鏡の破片を手に持って動かすとき、舞台上そして客席を含めた会場全体の各所に光が放たれる。まさに戦慄の瞬間。光とは敵を倒すパワーの象徴なのだろうか。なお、鏡の破片は寄せ集められ船にもなる。この船にライトが当たり眩く光るシーンは壮観だ。

◇中ぐらいの大きさ(1m×1.5mほど)の鏡の額縁も何度も登場する。まずはアルミーダとアルミレーナが向き合う場面。タッソによる原作「解放されたエルサレム」にはアルミレーナは登場しない。オペラのアルミレーナは原作のアルミーダのキャラが分化した一方と言うのが定説らしい。悪女と聖女。おそらく二人は鏡の中にもう一人の自分の姿を見ているのだろう。このほか鏡の額縁は、囚われの象徴としても使われる。アルミレーナ、リナルド、そして最後はアルミーダとアルガンテもこの額縁の中へ。この鏡の額縁は、物理的と言うよりも、心理的な拘束を表しているように思われた。アルミレーナが額縁から出て「私を泣かせてください」を歌い、歌い終わった後は再び静かに額縁の中に戻っていくところは実に悲しく心に沁みる。また、リナルドを誘惑するアルミーダが思い余ってリナルドが入っている額縁に自ら飛び込んでしまうのも何だか哀れで切ない。

◇鏡の額縁が二重に重なると意味が変わる。アルミーダが化けたアルミレーナ(実際はフランチェスカ・ロンバルディ・マッズーリさんが演じているのだが)は二重の額縁の中にいて、リナルドが騙されて近づいてくると、さっとアルミーダに入れ替わる。額縁の使い方の見事さに驚かずにはいられない。

◇鏡と言う点では、まだまだある。さらわれたアルミレーナを追うリナルドを誘い込んだ二人の女性が持っていたのも手鏡だ。妖しい光に籠絡(ろうらく)されたのだろうか。さらに、ゴッフレードと弟のエウスターツィオが「魔法使い」から受け取る強力な武器である「魔法の杖」も、今回は「黄色い傘」と「小ぶりの鏡(30㎝×50㎝ほど)」で表現されていた。この鏡から発する光の何と強いこと。

◇なお、黒い帽子にカーキ色のコートを着て白いスニーカーを履いた「魔法使い」が、正体を伏せたまま第1幕冒頭から登場したのも大変面白い趣向であった。確かに題字の「RENALD」を大きくしたり小さくしたりと「魔法」を使っていた。彼は、第2幕冒頭でも登場し波の音の効果音を担当する。何という粋なアイデア。

◇衣装についても触れておこう。シンプルながら実にセンスが良い。リナルド、アルミレーナ、ゴッフレード、エウスターツィオなど十字軍側は白を基調としたものであるのに対し、アルミーダやアルガンテらサラセン側は黒が基調。十字軍側の中でもスカーフの色を変えたりときめ細かい配慮。そして特筆すべきはサラセン側のいかにも悪役といった感じの衣装。アルミーダは黒い衣装に赤いブーツ、意地悪そうな濃いメイクに個性的なヘアー・スタイル。アルガンテは金の刺繍入りの黒コートに黒ズボン。派手な模様の金色のシャツ、そしてサングラスをかけ、大きなシルバーのネックレスをしている。分かりやす過ぎ、説得力があり過ぎとでも言うべきか。

◇演出面で最後にもう一つ。それは歌手陣とオーケストラとの一体化だ。雷鳴とともに颯爽と登場したアルミーダはタバコを吹かしつつオーケストラのメンバーを誘惑しながら歌い、さらわれたアルミレーナを必死で探すリナルドはオーケストラの間を縫うように歩き回り、アルミレーナは寺神戸亮さんが弾くヴァイオリンと共演したりする。こうした趣向は最近のはやりではあるが、今回の演出は、わざとらしさがなくて自然で良い。いや、適度なわざとらしさが絶妙なのかも。

<歌唱>

◇今日の公演の最大のスターは誰か、と問われれば、誰もがアルミーダ役の湯川亜也子さんと答えるのではないだろうか。それほど彼女は凄かった。張りがある力強い声、完璧な装飾唱法、舞台女優のような迫真の演技など、どれをとっても非常にレベルが高く、華やかでドラマチック、そして存在感が群を抜いていた。

◇リナルド役のクリント・ファン・デァ・リンデさんの熱演も光った。朗々と歌うファルセットの中性的な響きは、まさにヘンデル・オペラに相応しい。アルミレーナ役のフランチェスカ・ロンバルディ・マッズーリさんはとても愛らしい。良く通る美しい高音が聴いていてとても心地よく魅力的だ。アルガンテ役のフルヴィオ・ベッティーニさんは堂々たる歌唱で観客を魅了。巧みな演技力でも会場を沸かせた。

◇そのほか、ゴッフレード役の布施奈緒子さんは凛々しい男役をかっこよく演じ、エウスターツィオ役の中嶋俊晴さんは地味ながら堅実で安定感ある歌いっぷり、魔法使い/使者役のヨナタン・ド・クースターさん、シレーネ役の澤江衣里さん、望月万里亜さんも好演した。

<指揮・管弦楽>

◇管弦楽のレ・ボレアードは、北とぴあ国際音楽祭から生まれた古楽オーケストラ。指揮者で第一ヴァイオリン奏者でもある寺神戸亮さんは、国際的に活躍する古楽のスペシャリスト。今日も、素朴で歯切れよく力強い演奏を披露してくれた。本当に素晴らしい。

●バロック・オペラは世界的に復権しブームとなっているが、日本での上演回数は決して多くはない。そうした中で、北とぴあ国際音楽祭の存在はとても貴重だ。プログラムによれば、来年はリュリの『アルミード』とのこと。次回もとても楽しみだ。

以上

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