新国立劇場オペラ公演『ドン・パスクワーレ』を観る

●2019年11月17日(日)、新国立劇場(初台)でドニゼッティ作曲のオペラ『ドン・パスクワーレ』を観た。私がこのオペラを観るのは今回で二回目。どちらかと言えば「ドタバタ喜劇」というイメージが強かったが、「こんなに面白かったのか、こんなにも心に響くものだったのか」と作品に対する見方がが大きく変わってしまうほどの素晴らしい公演であった。

D ドン・パスクワーレ.jpg

●今日のメンバーは以下の通り(敬称略)。

指揮:コッラード・ロヴァ―リス
演出:ステファノ・ヴィツィオーリ

ドン・パスクワーレ:ロヴェルト・スカンディウッツィ
マラテスタ:ビアジオ・ピッツーティ
エルネスト:マキシム・ミロノフ
ノリーナ:ハスミック・トロシャン
公証人:千葉裕一

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

●それでは、演出、歌唱・合唱、指揮・管弦楽について見て行こう。

<演出>

●ステファノ・ヴィツィオーリ氏の演出はとてもお洒落だ。イタリアを始め多くの歌劇場で上演され続けている「決定版」とされるのも頷けよう。基本的にはオーソドックスだが、重すぎず軽すぎず何とも丁度良いバランス。重厚なセットはなく、舞台に設けられたのは、閉じれば外観、開けば内部が見える折り畳み式の建物で、天井はなく常に背後や上方に青空が広がっているのが実に新鮮だ。建物の内部は、たくさんの骨董品や書物で埋め尽くされた棚が並んでいる。

●建物の内外だけではない。建物が二つに割れると、一方は城壁(?)にもう一方は松のような木々になってしまう。これらのいかにも「絵に描きました」といった感じも妙に楽しい。そして真ん中には光り輝く水平線が見える。

●後半では、ノリーナの好みに合わせて折り畳み式の建物の内部が一変する。骨董品や書物は消え去り、壁という壁は全て白い布で覆われて新婚の家に相応しい内装に。この転換は実に手際よく見事だ(歌舞伎の手法に酷似)。そしてこの後は、大勢の使用人たちが慌ただしく動き回るなか、巨大な台所のセットが登場する。天井からぶら下がるソーセージや肉類、銅製の鍋やヤカンは、やけにリアルで強烈なインパクト。

●終盤の逢引の場は、閉じた建物の前。建物の外観がドン・パスクワーレの顔に似ているのが一際目立つ。そして周囲には、まるで学芸会のセットのようなチープな草木が置かれている。遊び心溢れる演出に思わずニヤリとしてしまう。

●あまりの面白さに舞台装置のことばかり述べたが、衣装も見逃せない。時代は少しずらしているようだが、ドン・パスクワーレの豪華なガウン、ノリーナの美しい白いドレス、エルネストのカッコいいコート等々、まさに観客が期待するもの。なお、登場人物の動きの面でも楽しい場面が。特に、ドン・パスクワーレとマラテスタが二重唱の直後、拍手喝采の中で握手をし、いかにもやったぞとポーズを取ったりするところは粋な演出と言える(まさかアドリブではないですよね)。

●こうしたお洒落な舞台装置の中で、美しい衣装を着た登場人物がコミカルで小気味よい演技をする。個々の場面では楽しくてしょうがないが、終わった後で心に残るのは、ドン・パスクワーレの寛容さ。そしてそれと表裏一体の「哀しさ」だ。まるで「フーテンの寅さん」のような面白いけど心に沁みる実に見事な演出であった。

<歌唱・合唱>

●このオペラの主要な役は4人のみ。1人ひとりの責任は重いが、今日のメンバーは実にレベルが高い。ドン・パスクワアーレ役のロベルト・スカンディウッツィさんは声量豊かで存在感溢れる好演、マラテスタ役のピアジオ・ピッツーティさんは抜群の演技力、二人で機関銃のように早口で歌う二重唱はまさに圧巻だ。エルネスト役のマキシム・ミロノフさんはとてもカッコいい。甘いマスクと繊細な高音で観客を魅了する。

●しかし、何といっても本公演の最大のスターはハスミック・トロシャンさんだ。美しい容姿、良く通る美声、完璧な装飾的唱法、そして演技も含めた表現力の豊かさ等、どれをとっても超ハイレベル。ダニエル・ドゥ・ニースの降板による代役とは信じられない。というか、ドゥ・ニーズ自身がかつて代役で名を上げたのだから、ぴったりの巡りあわせなのかも知れない。

●新国立劇場合唱団は、いつもながらの素晴らしい合唱を披露し、今日は演技面でも存在感が大きかった。

<指揮・管弦楽>

●コッラード・ロヴァ―リス氏が指揮する東京フィルハーモニー交響楽団の演奏は、とても歯切れよく躍動感があり、ドラマを盛り上げた。

(余談だが)

●終演後は、学習院オペラアカデミーの仲間の方々十数人と、講師の加藤浩子さんを囲んでの食事会。場所は新国立劇場からほど近い某イタリアアン・レストラン。今観て来たばかりのオペラの話題で盛り上がりながら、美味しい料理とお酒をいただく。人生最高の時間だ。うーん、やっぱりオペラは楽しい!

以上

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