NISSAY OPERA 2019『トスカ』を観る

●2019年11月9日(土)、日生劇場(日比谷)で、NISSAY OPERA 2019『トスカ』を観た。演出、歌唱・合唱、そしてオーケストラの四拍子揃った非常にクオリティの高い公演。久しぶりに見応えも聴き応えもある素晴らしい「トスカ」に出会えて本当にうれしく思う。クオリティに加え、劇場の規模やチケット代金等をも考慮すれば、今、日本国内で上演されるオペラの理想形と言っても過言ではない。

T トスカ(日生).jpg

●まずは今日のメンバーを確認しておこう。

◇指揮:園田隆一路
◇演出:粟国淳
◇トスカ:砂川涼子
◇カヴァラドッシ:工藤和真
◇スカルピア:黒田博
◇アンジェロッティ:デニズ・ビシュニャ
◇堂守:晴雅彦
◇スポレッタ:工藤翔陽
◇シャッローネ:金子慧一
◇看守:氷見健一郎
◇牧童:片山和音
◇合唱:C.ヴィレッジシンガーズ
◇児童合唱:パピーコーラスクラブ
◇管弦楽:読売日本交響楽団

●続いて演出、歌唱・合唱、指揮・管弦楽について見ていきたい。

<演出>

●粟国淳氏の演出は基本的にはオーソドックスで美しい。しかしそれだけに止まらず、舞台装置では観客の目を驚かせ。登場人物の描き方ではドラマ性を飽くまで追求し観客の心を掴んで離さない。

●第1幕はサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会。落ち着いた雰囲気の趣ある教会の建物に感心して見ていると、ドラマの進行に合わせて、教会の建物がくるっと回転し教会の内部に早変わり。教会の中に立てかけられたカヴァラドッシが制作中の「マリア・マグダレーナ」の絵の赤い衣装が一際目を引く。回転舞台は場面場面に応じて行きつ戻りつ、最後は戦勝を祝う《テデウム》が荘厳に歌われ幕を閉じる。演技面では、スカルピアがトスカの嫉妬深さを巧みに利用する緊迫の心理劇が見事に描かれ、一時も目が離せない。衣装面では、トスカのお洒落な帽子と鮮やかなオレンジ色と水色のドレス、そして銀髪のスカルピアが羽織る黒マント(裏地が赤!)、豪華なボタンが付いた黒い上着、そしてその下に着ている赤いシャツが印象的だ。

●第2幕はファルネーゼ宮殿のスカルピアの居室。さずがローマの最高権力者の館。実に豪華賢覧たる雰囲気。椅子と机、そして奥の部屋の長椅子とテーブルもとても上等そう。壁には大きなイタリアの地図がかけられている。長椅子の赤と地図の青(海の部分)との対比が鮮やかだ。ここでは、奥の部屋が回転舞台になっていて、ドラマの進行に合わせて、巧みに場面転換が図られる。さらに驚いたのは、隣室でカヴァラドッシが厳しく拷問を受ける様子がイタリア地図越しにはっきりと浮かび上がったこと。こういう演出は初めての経験だ。この手法は、ナポレオン勝利の一報が入った際にも使われ、フランス軍が優位に戦う光景を見ることに。この幕でのトスカとスカルピアの対決も凄まじく、2人の迫真の演技はまるで映画を見ているかのよう。衣装面で目立つのは、トスカの輝く髪飾りと首飾り、そして鮮やかなブルーのドレス。後はやっぱりスカルピア。黒地に金色の模様をあしらったゴージャスなガウンがいかにも悪者という感じ。

●第3幕はサンタンジェロ城の牢獄。最初に見えるのは牢獄の屋上。しかし舞台の右側は真っ黒で何も見えない。と思いきや、今度が左側が闇になり、右側に見えるのは牢獄の内部。鉄格子入りの高い窓から斜めに光が差し込み、壁が照らされている。ここで歌うカヴァラドッシの「星は光りぬ」はあまりに切ない。そこへトスカが現れ、処刑は見せかけでこの後逃亡できることをカヴァラドッシに告げるが、彼は喜ぶどころか寧ろ苦しんでいるような様子。そうか、この演出は、カヴァラドッシが自分の死を覚悟しているというものなのだ。トスカを思い信じているふりをしようと努めるカヴァラドッシの気持ちを考えると辛いが、とても説得力がある。この後、牢獄内部は回転し、照明も舞台全体に当てられ全体が見えるようになると、そこは屋上と牢獄の外側が。ラストのトスカの仰向けでの飛び降りシーンも圧巻であった。

●各幕で共通して使われた回転舞台について、一言付け加えたい。私はこの手法を優れて「映画的」と感じた。映画では頻繁に場面が転換するが、その場合にはカメラが移動する。カメラの移動により、建物の内部も外部も自由に行き来できる。劇場におけるカメラとは観客の目だ。観客の目が舞台への方向しか向いていないのなら、舞台の方を変えてしまおうという訳だ。映画の前身あるいは後の映画を先取りしたとも言われるプッチーニのオペラに「映画的」な手法を用いたとは実に秀逸な発想。決して珍しくはない回転舞台をここまで魅力的に使う、まさに粟国淳氏の力量の確かさが感じられた。

●今日の「トスカ」を観ていて、ふと2018年9月の東京文化会館オペラBOXの「トスカ」を思い出した。演出は同じ粟国淳氏。トスカも同じ砂川涼子さん。もちろん劇場の規模や舞台装置の豪華さは全く異なるが、登場人物の心理をきめ細かく描くという点では共通している。音楽で例えるなら、オペラBOX版が「弦楽四重奏」で、今回公演は同じテーマを表現する「交響曲」とでも言えようか。

<歌唱・合唱>

●歌手陣は本当に充実していた。まず第一に挙げるべきは、やはりトスカ役の砂川涼子さんだ。美しく良く響く声はますます厚みを増し奥行きを深めたという印象。そして特筆すべきは「役者」としての実力の高さだ。細かい仕草や顔の表情の一つひとつに心を配り、その迫真の演技で観客をドラマの展開に引き込んでいく。さすが「歌う女優」だ。

●カヴァラドッシ役の工藤和真さんも見事な歌唱を披露。朗々とした情感あふれる美しい高音は観客を大いに魅了した。今後がますます楽しみなテノールだ。

●スカルピア役の黒田博さんの存在感は抜群だ。いかにも悪者と言った憎々しい独特なオーラを存分に放ちながら、迫力ある堂々たる歌いっぷり。

●そのほか、アンジェロッティ役のデニス・ビシュニャさんはヴィジュアル的にも役にぴったり、堂守役の晴雅彦さんは、コミカルな演技で個性を最大限生かし、スポレッタ役の金子慧一さん、看守役の氷見健一郎さんも地味ながら好演。牧童役の片山和音さんが舞台に登場するのも嬉しい(新国立劇場公演演出では牧童役は声だけの出演)。

●合唱のC.ビレッジシンガーズ、児童合唱のパピーコーラスクラブの活躍も光った。

<指揮・管弦楽>

●園田隆一郎氏の指揮はテンポが良い。読売日本交響楽団もこれに応え、歯切れよくドラマチックな演奏でオペラを盛り立てる。アリアの後もすかさず次の演奏に入り、拍手を入れさせない徹底ぶり。異論はあるが、「トスカ」という緊迫したオペラにおいて、飽くまでドラマの進行に拘るなら当然といえよう。

以上






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