新国立劇場オペラ公演『エウゲニ・オネーギン』を観る

●2019年10月9日(水)、新国立劇場のオペラ公演『エウゲニ・オネーギン』を観た。ソロ歌手陣の見事な歌唱、完璧とも言うべき合唱、そしてオーソドックスで美しいだけに止まらず観る者に問いを投げかけるような演出。何度でも観たい。そう思わせるような素晴らしい公演であった。

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●時代は19世紀、場所はロシア。ラーリン家の娘タチヤーナは、妹オリガの許嫁レンスキーが連れてきたオネーギンに心を奪われ、その思いを告白するが彼は相手にしない。そしてオリガばかりを踊りに誘うオネーギン。嫉妬に燃えるレンスキーは決闘を申込み、オネーギンの銃弾に倒れる。数年間の放浪後、ペテルスブルクに戻ったオネーギンの前には、公爵夫人として美しく成長したタチヤーナの姿。今度はオネーギンが彼女に恋い焦がれる番だが、彼女は「過去は戻らない」と言ってこれを拒む。という筋書き。まさに「愛のすれ違い」の物語だ。

●まずは今日のメンバーを確認しておこう。

指揮:アンドリュー・ユルケヴィチ
演出:ドミトリー・ベルトマン

タチヤーナ:エフゲニア・ムラーヴェワ
オネーギン:ワシリー・ラデューク
レンスキー:パーヴェル・コルガーティン
オリガ:鳥木弥生
グレーミン公爵:アレクセイ・ティホミーロフ
ラリーナ:森山京子
フィリッピエヴナ:竹本節子
ザレツキー:成田博之
トリケ:升島唯博
隊長:細岡雅哉

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

<演出について>

●チラシ等によれば、ドミトリー・ベルトマン氏は、スタニフラフスキーによる伝説の1922年公演の演出をモチーフにしつつ、この作品を現代的な視点から描き直したとのこと。元演出の詳細はよく知らないが、スタニフラフスキーは、歌手に対し人物の内面を演じる俳優としての役割をも求めていたらしい(公演プログラム等から)。

●今回の演出の舞台装置の関しては、誰もがその美しさに異論はなかろう。第1幕第1場では堂々たるラーリン家の白亜の邸宅、同第2場ではピンクの壁紙も愛らしいタチヤーナの部屋、同第3場では秋の気配漂う庭、第2幕第1場では「タチヤーナの名の日」を祝う賑やかな宴会の場、同2場では決闘が行われる寒々とした雪原、第3幕第1場ではペテルスブルクでの豪華な舞踏会場、そして最後の同2幕ではグレーミン公爵邸のタチヤーナの居室。これらすべてが完璧といてよいほど見事に表現されている。

●しかも特筆すべきは、その描き方も写実的であったり、象徴的であったりと、場面場面に合わせて巧みに変化すること。また、ギリシャ風の4本の柱が、役割を変えながら全ての場面で登場するのも秀逸なセンスと言えよう。

●衣装についても同様だ。基本的に極めてオーソドックスである一方で、ラーリン家での人物の衣装が素朴ながら色彩的に豊かなのに対し、ペテルスルブルクの貴族たちの衣装は真紅(濃いピンクか?)のタチヤーナを除けば殆ど黒一色。舞台装置とともに、貴族社会の冷たさを表しているのだろうか。その対比の強烈さに驚きを禁じ得ない。

●しかし、登場人物の動きについては評価が分かれるかも知れない。良く言えば「演劇的」「マイム的」、悪く言えば「演技過剰」「バタバタしすぎ」ということだ。確かに、オリガははしゃぎ回る軽いキャラ、レンスキーは少々思慮が足りなそう、タチヤーナも単なる夢見る文学少女ではなく困ってウロウロしたり滑稽さも。そしてオネーギンもニヒルなばかりの男にも見えない。さらに、ラーリン家の宴会に招かれた田舎の人々は、大げさに動き、下品に飲み食いをし、そしてしまいには床に座り込んでしまう。一方、ペテルスブルグの貴族たちは身なりきちんとし身のこなしも優雅だが、観る側にもその冷たさがひしと感じられるもの。

●私も初めはこの演出に少々戸惑った。しかし、一見「喜劇的」とも見せつつも、実は、主要登場人物の年齢構成(例えばオリガは14~15歳)を踏まえた「綿密な心理劇」、加えて「辛辣な群像劇」として描いたこの演出が今ではとても気に入っている。なお、最終場面で、タチヤーナが大人の象徴である赤いドレスを脱ぎ捨て子供の頃の自分に戻ろうとするが、オネーギンは子供のタチターナでなはく赤いドレスを抱きしめる。まさに、この動きこそ「愛のすれ違い」の象徴である。実にに見事な演出だと思う。

<歌唱・合唱について>

●歌手陣はとても充実していた。タチヤーナ役のエフゲニア・ムラーヴェワさんは厚み・深みのある豊かな声と美しいヴィジュアルで観客を魅了、オネーギン役のワシリー・ラデュークさんは堂々たる歌唱と演技でタイトル・ロールを好演、レンスキー役のパーヴェル・コルガーティンさんは良く通る繊細な声が印象的、オリガ役の鳥木弥生さんも演出家の求めるコミカルな人物像を期待通り熱演した。

●このほか。グレーミン公爵役のアレクセイ・ティホミーロフさんは安定感ある歌いっぷり、ラリーナ役の森山京子さん、フィリッピエヴナ役の竹本節子さん、ザレツキー役の成田博之、トリケ役の升島唯博さん等、脇を固める方々の好演も光った。

●三澤洋史氏率いる新国立劇場合唱団による合唱は、いつものことながら本当に素晴らしいものであった。

<指揮・管弦楽>

●アンドリュー・ユルケヴィチ氏が指揮する東京フィルハーモニー交響楽団の演奏も見事であった。前評判では、同フィルのメンバーが二期会の「蝶々夫人」部隊と二分されレベルが下がるのではとの懸念があったが、全くの杞憂であった。

<最後に>

●今回の演出に対する理解に際しては、音楽評論家の室田尚子さんと井内美香さんから学んだところが大きい。お二人に心から感謝申し上げたい。

以上

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