東京文化会館オペラBOX『泣いた赤おに』を観る

●2019年9月22日(日)、東京文化会館小ホールでオペラBOX『泣いた赤おに』を観た。楽しく、そして心に沁みる素晴らしいオペラであった。原作の「泣いた赤鬼」は、童話作家である浜田廣介(1893~1973)の児童文学の代表作。このオペラは、この原作を題材にして松井和彦さんが台本を書き作曲した作品で、2015年公演の大好評を受け今回の再演となったもの。観客席には小学生ぐらいの少年少女も目立つ。今日は彼らにとって生涯忘れられない一日になったに違いない。

N 泣いた赤鬼.jpg

●まずは、今日のメンバーを確認しておこう(敬称略)。指揮は作曲者の松井和彦さん自身。歌手陣・楽器演奏陣はともに実力者ぞろい。東京音楽コンクール入賞者も多く、宮里直樹さんは第10回声楽部門第2位(最高位)、岡昭宏さんは第12回声楽部門第1位、岸本萌乃加さんは弦楽器部門第1位等、錚々たる面々。また本公演のためのワークショップで練習を重ねた数多くの子供たちが参加するのもとても微笑ましい。

台本・作曲・指揮:松井和彦
演出:久恒秀典
赤おに:宮里直樹  青おに:岡昭宏 
木こり:龍新一郎  その娘:盛田麻央
百姓:黄木透    その女房:八木寿子
ナレーター:高橋薫子
ナビゲーター:朝岡聡(プレトーク)

児童合唱&合奏:コロスわらんべ
ピアノ:服部容子
ヴァイオリン:岸本萌乃加
クラリネット:草野裕輝
打楽器:沓名大地、麻生弥絵、彌永和沙

●舞台装置は至ってシンプル。舞台後方にはグレーの岩山。背後は黒い布で覆われ、雲の形をしたものが張り付いている(あとで字幕表示板であることが分かる)。そして舞台の下手側は楽団(小規模だが)のピット。なお、グレーの岩山は照明によって種々表情を変える。

●開演に先立ち、まずは朝岡聡さんによるプレトーク。いつもながらの名調子だ。全ての楽器のルーツは人間の声。歌とお芝居が一緒になるのがオペラ。みんなが面白いと思う話は「愛」。愛は年齢に関係がない。食べたい物へ気持ちも「愛」、学校の友達をいたわる気持ちも「愛」、家族を想う気持ちも「愛」。「愛」を感じる時の心のドキドキを音楽にすると良く伝わる。これを400年前のイタリア人が発見した。これがオペラ。といった感じで淀みなく続く。最後は、原作の「泣いた赤鬼」のクライマックス部分(赤鬼が青鬼の家を訪ねる場面)を朗読し、そこの音楽がとても素敵であるとの説明が。これで期待が高まらないはずがない。実に巧みなトークだ。

<公演の様子>

●開演後、最初に登場するのは白いロングドレス姿のナレーター。ナレーターと言っても語りだけでなくもちろん歌も歌う。さすが高橋薫子さん。オーラの輝きが違う。子供たちも舞台に上がり賑やかに合唱・合奏。続いて赤鬼が登場。ややくすんだ赤色の衣装に角が二本付いたニット帽を被る。村人たちと友達になりたい赤鬼は村人を歓待する旨の立札を立てることを思いつく。宮里直樹さんが歌う心弾む楽しい歌。声は良く通り、言葉も明瞭で分かりやすい。さすが超一流の歌唱力。

●ナレーターが歌いながら立札を読む。ここで木こりが登場。手には斧を持ち背中には切った木を背負う。立札を知った木こりはこれを百姓に伝える。百姓の手には鍬(分かりやすい!)。2人のやりとりの二重唱は楽しくて面白い。能のパロディのような場面や、立札を読み違える場面などユーモアに溢れている。漸く赤鬼の家に着き、いざ赤鬼が出てくると、2人は「♪鬼が出たぞ」と歌いながら恐れおののいて逃げ帰ってしまう。龍新一郎さんと黄木透さんの歌唱もなかなかのもの。

●悲しむ赤鬼。赤鬼の心情を表わす音楽は絶妙だ。そっと寄り添ったり、あるいは気持ちの高ぶりを激しく示したり。ここへ友人の青鬼が登場。青鬼は全身青い衣装で被っているのは角一本のニット帽。手にはトゲトゲ付の金属製のこん棒を持っている。赤鬼の悩みを聞いた青鬼は、自分が悪者になって赤鬼がこれを懲らしめる作戦を考えた。赤鬼は逡巡しつつも青鬼に同意し、いざ村へ。赤鬼と青鬼との対話は、歌と台詞とのバランスや切り替わるタイミングがとても素晴らしい。青鬼の岡昭宏氏の歌いっぷりも見事だ。

●ナレーターが優しく歌い出すと、村の子供たちもこれに加わり大合唱。子供たちの衣装は、緑、赤、青、黄色などカラフルで可愛い。続いて、木こりとその娘、百姓とその女房の四重唱。「♪人は人、鬼は鬼~」といった感じでリズミカルで楽しい歌。そこへ作戦通り青鬼が乱入し、こん棒を振り上げ暴れまくる。駆け付ける赤鬼。赤鬼は青鬼を懲らしめ追い払う。ここで再び木こりとその娘、百姓とその女房が簾(すだれ)から頭を出して歌う四重唱が素晴らしい。「♪どういうこった~」「♪あの鬼だけは優しい鬼なんだ~」と楽しくて生き生きしている。

●木こりとその娘、百姓とその女房の4人は「♪赤鬼さん遊びませんか?」と歌いながら赤鬼の家へ。子供たちも登場し合唱の輪に加わり、さらにダンスも披露。しかし赤鬼はなかなか出てこない。眠ってしまっているようだ。そこで客席を巻き込んで赤鬼を呼ぶ大合唱。ようやく目を覚ました赤鬼は、見事な椅子・テーブル・長椅子がある自分の居間に招き入れ、紅茶とケーキで4人をもてなす。ここで4人は「♪赤鬼さんは力は強いし心も優しい~」と歌い出し、これに赤鬼も入って正に幸せの五重唱。あまりの盛りあがりに客席からも大拍手。宮里直樹さん、龍新一郎さん、黄木透さんはもちろん、盛田麻央さん、八木寿子さんの歌唱力もとても素晴らしい。

●この後は、5人でシリトリ遊びをして楽しさいっぱいに。赤鬼が最初に「ともだち」と言うと、「ちちち、ちくわ」「わざあり」「りんご」「ごかい(誤解)」「いいい、いか」「からて」「てがみ」・・・と続く。シリトリが進む時の音楽はとてもワクワクし、5人の歌い方も個性があって楽しい。赤鬼がそっとヒントを出すところも心が和む。そして最後は「おどり」に辿り着き、子供たちも含めて全員で楽しく踊る展開となる。

●ナレーターから「赤鬼には心がかりになるものが一つ~」と。青鬼のことが気になり家に赴く赤鬼。しかし青鬼はおらず張り紙が。張り紙には「僕は旅に出るけど、君のことはいつまでも忘れません~」とある。「♪青鬼くん、ごめんね。僕が悪かった。許してくれ」と切々と歌う赤鬼。一方張り紙の内容を言わばヴァーチャルな青鬼が歌うので、あたかも二人の緊迫した対話のよう。宮里直樹さんと岡昭宏さんのクオリティの高い歌唱を心から堪能する。まさに圧巻のクライマックスであった。

●なお、今日の楽器演奏は実に小気味の良いものであった。作曲者自身の指揮ということで、気持ちが一つになっていたことも当然あろうが、テク二カルな面でも申し分なかったと思う。これだけの少人数でこれほどのパフォーマンスとは驚くばかり。

<まとめ>

●児童文学の『泣いた赤鬼』は傑作であるが、オペラの『泣いた赤おに』も傑作であった。分かりやすく、しかし決して安易でない曲作り。登場人物の心理と一体化した表現のきめ細かさ。ソロ部分も素晴らしいが、様々な重唱が圧倒的な聴きごたえあり。こういうオペラを聴くことは大きな喜びだ。

●今日の公演のストーリーから強く感じたこと。それは逆説的だが、変に道徳的な教訓を求めてはならないということ。赤鬼は最後で「僕を許してくれ」と自らの非を詫びているが、誰も赤鬼を責めることは出来ない。誰かに出会うということは、同時に誰かと別れること。何かを得るということは、同時に何かを失うこと。我々は、そのことを静かに受け入れるしかないのかも知れない。って感じかしら。

●「オペラBOX]の企画は本当に素晴らしい。東京文化会館小ホールの音響が抜群であることに加え、席数が649という規模なので、舞台と客席との一体感が半端でない。今後も様々なオペラを上演していただきたい。

N 泣いた赤鬼2.JPG
      会場に飾られた鬼のお面
以上






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