藤原歌劇団オペラ公演『ランスへの旅』(新国立劇場)を観る

●2019年9月7日(土)、新国立劇場(初台)で、藤原歌劇団のオペラ公演『ランスへの旅』を観た。こんなに面白くて幸せな気持ちになるオペラが他にあるだろうか。ロッシーニの素晴らしい音楽を、今の日本で考えうる最高のメンバーの演奏と歌唱で聴く。演出も上品でお洒落だ。今日は、聴いて楽しく見て美しい夢のような舞台を心から堪能することとなった。重厚で深刻なものだけが芸術的な音楽ではない。やっぱりローッシーニは偉大だ。なお、本公演は藤原歌劇団単独開催ではなく、新国立劇場及び東京二期会との共催となっている。こうした連携はとても意義深く大変喜ばしく思う。

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●この作品は、ロッシーニがシャルル10世の戴冠祝賀イベントの一環として作曲し、1825年に初演したもの。所謂「機会音楽」ということから、ロッシーニ自身が楽譜を回収してしまい長い間演奏されずにいた(一部は新作『オリー伯爵』に転用)。そしてロッシーニ・ルネッサンスの大きな流れの中で、クラウディオ・アバドによって復活上演されたのが1984年。今では、最もロッシーニらしい傑作として多くの人に愛されている。もちろん私もその一人だ。

●物語の舞台は、フランスの温泉保養地プロンビエールにあるホテル「金の百合展」。ここには、ランスで行われるシャルル10世の戴冠祝賀行事に出席しようと、各国から貴族や名士たちが集まっている。届くはずの衣装が届かず悲嘆にくれたり、恋の駆け引きが行なわれたりと、種々の人間模様が描かれた後、何とランス行きの馬も馬車も確保できないことが発覚し一同落胆。しかし、パリでも祝賀行事が行われるとの朗報を受け、彼らはランスへの旅費を充てて盛大な宴会を開くことに。この宴会では、彼らは次々と自国の歌を披露し最後にシャルル10世を賛美して幕となる。何と『ランスへの旅』というタイトルなのに、ランスへ行けなくなった話ではないか。しかし、これを含めて楽しくてしょうがない。

●ここで今日のメンバーを確認しておこう(敬称略)。

総監督:折江忠道
指揮:園田隆一郎
演出:松本重孝

コリンナ:砂川涼子
メリベーア侯爵夫人:中島郁子
フォルヴィル伯爵夫人:佐藤美枝子
コルテーゼ夫人:山口佳子
騎士ベルフィオーレ:中井亮一
リーベンスコフ伯爵:小堀勇介
シドニー卿:伊藤貴之
ドン・プロフォンド:久保田真澄
トロンボオノク男爵:谷 友博
ドン・アルヴァーロ:須藤慎吾
ドン・プルデンツィオ:三浦克次
ドン・ルイジーノ:井出 司
デリア:楠野麻衣
マッダレーナ:牧野真由美
モデスティーナ:丸尾有香
ゼフィリーノ:山内政幸
アントーニオ:岡野 守

合唱:藤原歌劇団合唱部/新国立劇場合唱団/二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

●松本重孝氏の演出はとてもオーソドックス。しかし退屈さとは無縁だ。舞台装置は、モスグリーンを基調としたホテルの壁、美しい白木の床、壁と壁にかかるベージュ色の大きな天幕(「Lys d' Or(金の百合)」の文字)など、目に優しい落ち着いた色調。そして、木のベンチや温泉の蛇口が並ぶ「飲み場」(陶器製の容器も揃っている)など、細部への拘りも。衣装のセンスも良い。「派手」とか「渋め」とか一言で言えるものではなく、登場人物一人ひとりの個性を的確に表現しているのだ。なかでも、フォルヴィル伯爵夫人の鮮やかなピンクのドレス(前半)とキモノを連想させる豪華なドレス?(宴会)は最高であった。脇役を含めた登場人物の動作や仕草も綿密に計算されており、随所に見せるユーモアセンスにも好感が持てる。そしてラストシーンは特に印象的。フランス王家旗を中心に各国の国旗が円陣を描くさまは、まさに歌う世界平和と言うべきか。

●歌手陣は錚々たるメンバーが並ぶ。主役級から脇役まで全員が各々の役割を完璧に果たしていた。コリンナ役の砂川涼子さんは登場しただけで会場の雰囲気が一変するオーラを放つ。もちろん歌唱は見事というほかない。メリベーア侯爵夫人役の中島郁子さんは豊かな声量による堂々たる歌いっぷり。フォルヴィル伯爵夫人役の佐藤美枝子さんは大熱演。今日の登場人物の中で一番のお騒がせキャラを体当たりで演じ切る。自在に操る装飾的な唱法はまさに圧巻。騎士ベルフォーレ役の中井亮一さんはプレイボーイ役を好演し、シドニー卿役の伊藤貴之さんは恋する内気な男性の心を切々と歌いあげた。そしてリーベンスコフ伯爵役は期待の小堀勇介さん。彼はやっぱり凄い。「日本のフローレス」の呼び名に恥じない美しく華やかな歌唱を披露した。まだまだ挙げたいが長くなるのでこの辺で。あと、付け加えるべきは重唱の素晴らしさ。ソロも楽しいが、二重唱から最大十数人に及ぶ重唱もこのオペラの大きな魅力だ。時折現れる「ロッシーニ・クレッシェンド」は何度聴いても心が躍る。そして合唱は、三団体の精鋭が集う最強の布陣。文句のつけようがないパフォーマンスであった。

●指揮者の園田隆一郎氏は、ロッシーニ・ルネッサンスの立役者の一人である故アルベルト・ゼッダ氏の愛弟子。2015年の藤原歌劇団公演での指揮がゼッダ氏であったことを思い起こせば(私も日生劇場で観た)、見事にバトンが引き継がれたと言えよう。歌手陣との信頼関係も厚そうで呼吸もぴったり、演奏面では東京フィルハーモニー交響楽団から生き生きとした歯切れの良い響きを引きだした。さすが日本におけるロッシー二の第一人者。本当に素晴らしい。

●今日の公演を観て、改めて強く感じたこと。それは人々に幸福感を与える『ランスへの旅』が持つメッセージ性だ。国が違いお互いに利害が対立することがあったとしても、最後は受け入れ許し合い心を一つにする。EU内そして世界中で不寛容の嵐が吹き荒れる中、この作品を上演する現代的な意義は限りなく大きい。「国際政治はそんな簡単なものじゃない」と言う声も聞こえて来そうだが、敢えて言おう。メッセージはシンプルな方が分かり易く、その力も強いと。

●余談だが、ホワイエの売店で今日の出演者のサイン入り写真が販売されていた。私は砂川涼子さんの大ファンなので、彼女の分を当然ゲット。大切にしようっと。

S 砂川さんコリンナ.JPG


以上

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