新国立劇場オペラ公演『トゥーランドット』を観る

●2019年7月21日(日)、新国立劇場(初台)で、プッチーニ作曲のオペラ公演『トゥーランドット』を観た。本当に素晴らしい。インパクトが強烈でメッセージ性の強い斬新な演出、実力ある歌手陣による見事な歌唱、非常にレベルの高い合唱、そして指揮者とオーケストラによる息の合った名演奏と、全てが揃った、まさに心が揺さぶられるような記念碑的とも言うべき公演であった。もちろん、衝撃のラストシーンには賛否両論あろうが、そもそも『トゥーランドット』が未完であるが故に、様々な解釈が生まれるのであり、そのことこそが、この作品の大きな魅力であるのだ。

T トゥ-ランドット2.jpg


●この公演は、「オペラ夏の祭典2019-20」企画の一つとして、新国立劇場と東京文化会館が共同で制作し、両劇場に、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール及び札幌芸術劇場hitaruを加えた4劇場で上演される国際的なイベント。当然前評判も高く、プレイベントもいくつか用意され、また著名な音楽評論家の方々のコメントも多く寄せられていたので、私自身、やや予習過剰気味ではあったが、それでも本番での感動を損なうことは全くなく、むしろ、期待を大きく上回ったと言ってよい。

●まずは、今日のメンバーを確認しておこう。

指揮:大野和士
演出:アレックス・オリエ

トゥーランドット:ジェニファー・ウィルソン
カラフ:デヴィッド・ポロメイ
リュー:砂川涼子
ティムール:妻屋秀和  アルトゥム皇帝:持木弘
ピン:森口賢二     パン:秋谷直之
ポン:糸賀修平     官吏:成田眞

合唱団指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱団、びわ湖ホール声楽ンサンブル
児童合唱:TOKYO FM少年合唱団
管弦楽:バルセロナ交響楽団

●続いて、「演出」「歌唱・合唱」「指揮・管弦楽」について、その様子や感想等を記してみたい。

【演出】

◇アレックス・オリエ氏の選出は衝撃的だ。階級社会、すなわち強大な権力を持つ者と、彼らに支配される民衆という構図を強くイメージさせるもの。目の前の舞台装置は、この階級社会を見事に視覚化し観客を圧倒する。舞台の左右と後方には、傾斜した巨大な壁がそびえ立ち、その壁面には無数の階段が設けられている。この逆ピラミッドの底辺にうごめく民衆と、はるか上方から降臨してくるアルトゥム皇帝や王女トゥーランドットとの対比はあまりに強烈だ。この底辺の空間では、トゥーランドットの謎解きに敗れたペルシャの王子の処刑も行われる。

◇舞台上には古代の中国を意識させるものは何もない。舞台装置もそうだが、それは服装の面でより顕著だ。民衆の衣装は地味で薄汚れており、兵士はまるで冷酷なロボットだ。一方、アルトゥム皇帝とトゥーランドット及び彼らに使える官吏や女官たちは白一色の装束(不思議な形の帽子が印象的!)で、まるで別世界の者のよう。ここは近未来の抑圧された恐ろしい世界。まさに「来たるべきディストピア」を象徴するものなのだ。

◇ピン・パン・ポンの衣装が幕ごとに変わるのも興味深い。第一幕は汚い浮浪者、第二幕は清掃作業員、そして第三幕で漸く官吏らしい白い服装に。第二幕で彼ら3人は故郷を偲ぶ歌を切々と歌うが、この時の服装は特に説得力がある。大臣とは言え、やはり、彼らも支配される側にあるということであろうか。

◇なぜ、カラフは冷酷非情な王女トゥーランドットを愛したのだろうか。命を懸けてまで。従来の演出では常にこの点が疑問であった。アレックス・オリエ氏は、この疑問に対し明確な解答を示している。カラフはトゥーランドットではなく、彼女の持つ権力を欲したのだと。カラフは一度権力を奪われたものだけにその権力志向はより強かろう。確かに、これには納得し、すとんと腹に落ちる。

◇プッチーニは「リューの死」のところで亡くなり、その後はアルファーノが補筆した。現在では、トスカニーニが一部カットしたヴァージョンで上演されるのが一般的である。これによれば、リューの献身的な死を目の当たりにしたトゥーランドットが真の愛に目覚め、カラフの求愛を受け入れ、2人がめでたく結ばれるというハッピーエンドとなる。しかし、ここにも多くの人が腑に落ちなさを感じているはずだ。

◇一つは、目の前でリューが拷問されようと、そして自ら命を絶っても全く動じず、平然とトゥーランドットに求愛するカラフとはいったい何者なのか。もう一つは、重いトラウマを持つトゥーランドットの頑(かたく)なな心がそう簡単に変わるだろうか、ということ。前者の疑問は、既に述べた「カラフの強い権力志向」で説明がつく。しかし、後者は難しい問題だ。これに対し、アレックス・オリエ氏は衝撃のラストを用意した。トゥーランドットの自殺である。しかもリューのナイフで。トゥーランドットはリューの遺体のそばに跪き、両手を胸の上で組ませる等の仕草を見せており、彼女の献身的な死に大きく心を動かされた様子が見て取れた(まさか彼女のナイフを手にするためだけに近寄ったのではあるまい)。しかし、さずがに権力に魅せられたカラフを愛することは出来なかったのだろう。

◇冒頭で、ロウリン姫の悲劇を思わせる場面が展開される。トゥーランドットのトラウマの原因となったものだ。余計な演出との声もある。確かに唐突な印象はあるが、私は意欲的な試みだと思う。

<歌唱・合唱>

◇歌手陣は全員素晴らしかった。トゥーランドット役のジェニファー・ウィルソンさんは、衝撃のラストを含め、タイトルロールを好演。カラフ役のデヴィッド・ポロメイ氏は、良く伸びる高音が耳に心地よく見事な歌いっぷり。ティムール役の妻屋秀和氏は、いつもながらの絶対的な安定感で舞台を締める。ピン・パン・ポン役の森口賢二氏・秋谷直之氏・糸賀修平氏は、ドラマの進行を助ける重要な脇役として、息の合った演技で納得。アルトゥム皇帝役の持木弘氏、官吏役の成田眞氏も申し分ない。しかし、何といっても今日の真の主役は、リュウ役の砂川涼子さんだ。魂を込めた熱唱・熱演にただただ感動。私がこれまでに聴いたリュウの中で最高と言えるほど。こころから感謝し、大きな拍手を送りたいと思う。

◇合唱も充実していた。新国立劇場合唱団のレベルの高さは折り紙付きだが、今回はさらに藤原歌劇団合唱団、びわ湖ホール声楽ンサンブル、そして児童合唱としてTOKYO FM少年合唱団が加わる。まさに現在考えうる最強の合唱団だ。ドラマチックで奥行きが深い見事な合唱であった。

<指揮・管弦楽>

◇大野和士氏は、2015年9月からバルセロナ交響楽団の音楽監督を務めている。このオーケストラは大野和士氏のまさに手兵なのだ。その演奏はメリハリが効いていて限りなくエキサイティング。本当に素晴らしかった。

以上

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント