NISSAY OPERA 2019『ヘンゼルとグレーテル』(広崎うらんさん演出)を観る

●2019年6月16日(日)、日生劇場(日比谷)で、NISSAY OPERA 2019『ヘンゼルとグレーテル』を観た。とても素晴らしい公演だ。美しくて、面白くて、楽しくて、そしてちょっと不気味なメルヘンの世界。演出・振付を担当するのは、ダンス、演劇、オペラなど幅広く活躍する広崎うらんさん。彼女ならではの魅力的なワンダーランドが立ち現われる。主人公の兄妹を取り囲む登場人物のキャラもユニークで強烈だ。歌手陣は全員が体を張っての大熱演・大熱唱、脇を支え時にその場面の主役にもなるダンサーたちも見事な動きを披露する。今日の観客はオペラでは普段見かけない子供たちが大勢いた。この公演は、彼ら・彼女たちにとって生涯忘れられない大切な思い出になるだろう。見終わった後が、こんなに爽やかなことも珍しい。

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●まずは今日のメンバーを確認しておこう(敬称略)。

<スタッフ>
指揮:角田鋼亮      演出・振付:広崎うらん
日本語訳詞:田中信昭  美術:二村周作
照明:中川隆一      衣装:十川ヒロコ
ヘアメイク:田中エミ

<キャスト>
ヘンゼル:山下裕賀    グレーテル:鵜木絵里
父:小林大祐        母:八木寿子
魔女:伊藤達人      眠りの精・露の精:照屋篤紀

<ダンサー>
久保田舞、熊谷崇、佐伯理沙、人徳真央、鈴木明倫、鈴木奈菜、出口稚子、
長澤仙明、花島令、古澤美樹、松本ユキ子、宮原由紀夫、屋代澪、Ree

<コーラス>
天野壽理亜、池田斐咲子、加藤美帆、紺野恭子、宮田早苗、山元悠

<管弦楽>
新日本フィルハーモニー交響楽団

●続いて音楽について一言。たかがメルヘンオペラと言って侮ってはならない。作曲者のエンゲルベルト・フンパーディンクは、あの偉大なワーグナーの愛弟子であり、息子ジークフリートの家庭教師も務めた人物。民謡風の平易なメロディが多用され、誰でも(もちろん子供も)親しめ口ずさめるような音楽であるが、ここぞという所では、ワーグナーばりの複雑で重厚な音が響き渡る。だからオペラの初心者も一家言ある常連も楽しめるのだ(私は初心者に毛が生えたところか)。

●ストーリーはとても有名であろう。グリム童話で良く知られる物語。森に迷い込んだ兄妹、ヘンゼルとグレーテルが、お菓子の家を見つけて大喜び。しかしそこには恐ろしい魔女が住んでいた。兄妹の運命やいかに。という話。このオペラは概ね原作に忠実にストーリーを進めていく(注)。
(注)原作では、両親は貧困のため兄妹を森に捨ててきたとされるが(一度は失敗し二度までも)、さすがにこれでは親子には見せられない。

●それでは、公演の様子や感想などを、演出、歌唱、指揮・管弦楽ごとに記してみたい。

【演出】

◇冒頭で、今日の公演を「美しく」「面白く・楽しく」ちょっと「不気味」と述べた。このことについて、もう少しご説明しよう。

◇まずは「美しさ」。舞台のセットや登場人物の衣装は文句なく「美しい」といえる。森はほの暗くおどろおどろしい雰囲気、家は簡素であるのに対し、登場人物の衣装(含む髪の毛)は色彩的にバラエティに富んでいて、全体として、暗くくすんだ色合いと明るく鮮やかな色合いとの対比が実に見事だ。ダンスをふんだんに取り入れたシーン作りも巧みで、なかでも第2幕ラストで天使が現れ天井から白いものが降り注ぐ光景はファンタジーそのもの。

◇続いて「面白さ・楽しさ」。とにかく登場するものが面白い。人物以外に、タンポポの綿毛のようなもの、黒い衣装に白い仮面姿のまるで「千と千尋の神隠し」に出てくる「カオナシ」のようなもの、白い足が何本も生えているイカかタコのようなもの等々。男性が演じる魔女のキャラもぶっ飛んでいる。黒い「女王様風」の衣装を身に着け、白い杖(先が緑色に光る)を振り回す。そして、彼女(?)の分身はホウキに跨り日生劇場の客席の上を一直線に飛んでいく。魔女の体を張った「脱ぎっぷり」(笑)も最高だ。お菓子の家、かまど等のディテールも妙にリアルで、見ていてとても楽しい。

◇最後に「不気味さ」。ヘンゼルとグレーテルが迷い込んだ森の中は確かに「不気味」だが、もちろん「不気味さ」とはそれだけではない。実は、この作品について、広崎うらんさんが語った記事がある。内容は次の通り(詳しくはこちら)。

本来は”ドイツの森”のお話ですが、私は”1回終わった地球”の物語としています。
ケミカルな物で溢れ、汚染された食べ物しかなく、人々の肌も髪の色も変わってしまい、森は枯れ果て、人々は神話のような過去の世界を発掘したものから想像している。
唯一、永遠の命と美貌を求め、子供のエキスからフレッシュなものを生成する研究所の”魔女”のみが過去の人間の形相を残している……。

◇事前にこの記事を読んでいたので、目の前の光景に何度も「なるほど」と感じた。確かに子供たちの髪の色が青いのは妙だし、両親の姿も、そして彼らの家も、どことなく荒廃した感じ。ふと映画「マッドマックス」の世界を連想したりもする。子供向け作品ながら、しっかりと「毒」あるいは「ブラックさ」を盛り込んでいるのだ。でも、この作品の原作がアンデルセン童話ではなく、グリム童話であることを思い出せば、まさに「王道」を行く演出と言えよう。

【歌唱・コーラス・ダンス】

◇今日の歌手の方々は、とても大変だった思う。なぜなら、普段以上に動き回り運動量が多かったはずだからだ。メルヘンオペラだからと言って歌唱面も決して簡単ではないらしい。岡田暁生氏によれば、「難しいと思わせないように歌うことが難しい」とのこと(4/13音楽レクチャー「オペラとメルヒェン」)。こうした中、歌手の方々は、とても楽しそうに歌い、それが観客にダイレクトに伝わった。さすがプロフェッショナルだ。

◇ヘンゼル役の山下裕賀さんとグレーテル役の鵜木絵里さんは実に気が合った演技。山下裕賀さんの深みのある落ち着いた声と鵜木絵里さんの透き通るような美しい声のデュオがとても素晴らしい。父親役の小林大祐氏と母親役の八木寿子さんも、ボサボサの髪、怪しげな容貌(のメイク)で、各々の強烈なキャラを好演。しかし、インパクトの強さという点では、何といっても魔女役の伊藤達人さんが一番だろう。オネエパワー炸裂とも言うべき大熱演・大熱唱に会場は大喝采。また、眠りの精・露の精はストーリー展開の中での進行役。照屋篤紀氏は、この重要な役を期待通りに果たした。

◇C.ヴィレッジシンガーズの方々によるコーラスも本当に素晴らしい。

◇忘れてはならないのが、ダンサーの方々だ。冒頭でも述べたように、広崎うらんさん演出の本公演においては、間違いなく、もう一つの主役なのだ。彼らの素晴らしいダンス・パフォーマンス失くしては、今日の感動はなかったと思う。心から大きな拍手と感謝の気持ちをお送りしたい。

【指揮・管弦楽】

◇角田鋼亮氏の指揮のもと、新日本フィルハーモニー交響楽団は、とてもエキサイティングな演奏を聴かせてくれた。角田鋼亮氏の指揮による演奏を聴くのは初めてだったが、とても素晴らしい。是非、今後も注目していきたいと思う。

●終演後、ロビーで、広崎うらんさんがおられたので、お忙しいとは知りつつも思い切ってお声がけし、一言二言お話しをすることができた。広崎うらんさんのファンの私としては本当に嬉しい。彼女は、大変才能ある方であるとともに、とても感じが良く、チャーミングな方。今後益々のご活躍をお祈りしたい。

以上








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