ボローニャ歌劇場来日公演『セヴィリアの理髪師』(神奈川県民ホール)を観る

●2019年6月22日(土)、神奈川県民ホール(日本大通り下車)で、ボローニャ歌劇場の来日公演『セヴィリアの理髪師』を観た。奇をてらわない上質な演出、アントニーノ・シラグーザ氏をはじめとした実力派歌手陣による優れた歌唱、そして活気に溢れたエキサイティングなオーケストラと、全ての点で非常にレベルが高い素晴らしい公演。さすがボローニャ歌劇場! 観劇前の期待と終演後の余韻を含め、大満足の一日となった。

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●まずは今日のメンバーを確認しておこう(敬称略)。

指揮:フェデリコ・サンティ
演出:フェデリコ・グラッツィー二

アルマヴィーヴァ伯爵:アントニーノ・シラグーザ
フィガロ:ロベルト・デ・カンディア
ロジーナ:セレーナ・マルフィ
ドン・バルトロ:マルコ・フィリッポ・ロマーノ
ドン・バジリオ:アンドレア・コンチェッティ
ベルタ:ラウラ・ケリーチ
フィオレッロ:トンマーゾ・カーラミーア
アンブロージョ:マッシミリアーノ・マストロエニ
士官:サンドロ・プッチ

ボローニャ歌劇場管弦楽団/合唱団

●それでは「演出」「歌唱」「管弦楽/合唱」について、その様子や感想などを記してみたい。

【演出】

◇フェデリコ・グラッツィー二氏の演出は伝統的なもの。しかも、とても良く工夫されている。冒頭こそ、猟銃で撃たれた鳥が舞台上方から落ちてくるという予想外な始まりではあったが、その後は基本的にはオーソドックスに進められる。しかし、要所要所にセンスの良さやユーモアが感じられる優れもの。

◇第1幕第1場のドン・バルトロの家は、緑の生垣に囲まれた白く瀟洒な建物。窓は二つ。何でも屋のフィガロが生垣ををチョキチョキと裁断する姿も見ていて楽しい。第1幕第2場及び第2幕は、そのドン・バルトロの家の内部。ちゃんと二つの窓がある。ブルー/グリーンの濃淡の縦じまの壁紙も目に鮮やか。舞台セット自体はシンプルだが、お洒落で無駄がなく好印象。家具類は、第1幕第2場ではライティング・デスクや椅子、第2幕ではこれらがピアノに変わる。共通してあるのは重要な小道具「ドン・バルトロの白い胸像」だ。そして、第2幕終盤では、ドン・バルトロの家の壁が全て取り外され、広々とした空間になり、ここでアルマヴィーヴァ伯爵の大アリアが披露される。この舞台セットに関して特筆すべきは、その転換の場面。観客の目の前で堂々と行われ、しかも、その行為が全くドラマの進行を妨げない。それどころかドラマの一部になっているような印象。

◇登場人物の衣装も多彩だ。基本はトラッドながら色彩が豊かで美しい。フィガロはオレンジ色のシャツに真っ赤なズボン、アルマヴィーヴァ伯爵は青い軍服、ロジーナは鮮やかな黄色いドレス、ドン・バルトロは濃いグレーのコート、ドン・バジリオは黒いコート、ベルタは赤紫色の上着(縞々)とスカート。一人ひとりの衣装も良いのだが、圧巻なのは彼らが集まって歌う重唱の場面。色の対比がとても楽しく舞台映えする。さらにメイクも見逃せない。ドン・バルトロは、見事な禿げ頭に跳ねた白髪と顎ひげ。ドン・バジリオはバーコード頭にリスト風の長髪と丸い色眼鏡。この二人は見ているだけで楽しい。

◇猟銃がたびたび登場するのに戸惑った観客もいたかも知れない。冒頭シーンに加え、「Una voce poco fa(ある声が今しがた)」の場面でロジーナが銃で胸像の頭を叩き落としたり、同じくロジーナがリンド―ロに裏切られたと勘違いして彼に銃を向けたり。猟銃とは何か。たぶん「他人に向けられる強い感情あるいは意志」を表現しているのではないかと思う。

◇そのほか、遊び心も満載だ。最初と最後に天井から吊され下りてくる看板。色とりどりのライトで縁取りされたその看板には、「il barbiere di siviglia」そして「FINE」と記されている。変なアイデアだが、あっけらかんとしたバカバカしさがとても潔い。来日公演ならではのファンサービスの面でも余念がない。「ちょっと待って」「だれ?」などの日本語も飛び出す。よくある演出だが、あえてやってくれる気持ちがうれしい。また、エンディングでの赤い風船乱舞も賑々しくてとても良い。なお、銀色の巨大なボールの登場は、その意味が良く分からなった。音楽ライターの井内美香さん(今回のボローニャ劇場公演に通訳として同行)に会ったら聞いてみよう。

【歌唱】

◇アルマヴィーヴァ伯爵役のアントニーノ・シラグーザ氏は本当に凄い。とにかく高音の美しさと伸び、そしてベルカントのテクニックが抜きんでている。さずが世界のスーパースター! 第2幕の終盤の超絶技巧の大アリア「Cessa di più resistere(もう逆らうのをやめろ)」はまさに圧巻。あまりの素晴らしさに会場全体が大興奮。歌い終わったあと数分間(いやもっとか)、BRAVO!の声があちこちで飛び交い、拍手が鳴りやまない。オペラの進行は完全に中断されてしまった。私は今まで120回オペラを観ているが、こんな経験ははじめて。

◇フィガロ役のロベルト・デ・カンディア氏は体格もよく堂々とした歌いっぷり。演技力も素晴らしく、明るく陽気なフィガロにぴったりだ。「Largo al factotum(町の何でも屋に)」は見事な歌唱で、聴きごたえがあった。

◇ロジーナ役のセレーナ・マルフィさんは美形だ。黒髪にくっきりとした顔立ちで舞台映えする。もちろん声も深みがあって表情豊か。とても魅力的なロジーナだ。「Una voce poco fa(ある声が今しがた)」は期待通りの熱唱で聴衆を魅了。私も大満足であった。

◇このほか、ドン・バルトロ役のマルコ・フィリツポ・ロマーノ氏は存在感を示す熱演、ドン・バジリオ役のアンドレア・コンチェッティ氏はコミカルな役回りを好演、ベルタ役のラウラ・ケリーチさんは地味ながらきめ細かな演技でドラマの進行をサポートした。3人とも各々の見せ場・聴かせどころのアリアはレベルの高い歌唱。

【管弦楽/合唱団】

◇ボローニャ歌劇場の管弦楽団/合唱団の『セヴィリアの理髪師』は本当に上手い。今日は素晴らしい演奏でオペラを大いに盛り上げた。

(余談だが)

●私の席の右隣は昭和音大で声楽を学ぶ学生の方(ソプラノ)。共通の知人もいたりして話が弾む。是非、光岡暁恵さん(昭和音大出身)のような大歌手になっていただきたい。

以上

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