新国立劇場オペラ『ウェルテル』を観る

●2019年3月21日(木・祝)、新国立劇場(初台)でマスネ作曲のオペラ公演「ウェルテル」を観た。情感溢れる極上の音楽、その音楽に寄り添う美しい演出、そして何よりも、ウェルテル役のサイミール・ピルグさん、シャルロット役の藤村実穂子さんを始めとした歌手陣の素晴らしさが際立った感動的な公演であった。

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●まずは、今日のメンバーを確認しておこう(敬称略)。実に豪華な布陣である。しかも豪華さはカバーの歌手にまで及ぶ(山下牧子さん、鵜木絵里さんほか!)。

◇指揮:ポール・ダニエル
◇演出:二コラ・ジョエル  ◇再演演出:菊池裕美子

◇ウェルテル:サイミール・ピルグ
◇シャルロット:藤村実穂子
◇アルベール:黒田博
◇ソフィー:幸田浩子
◇大法官:伊藤貴之  ◇シュミット:糸賀修平
◇ジョアン:駒田敏章  ◇ブリュールマン:寺田宗永
◇ケッチェン:肥沼諒子

◇合唱:新国立劇場合唱団
◇児童合唱:多摩ファミリーシンガーズ
◇管弦楽:東京交響楽団

<演出について>

●ニコラ・ジョエル氏の演出は、オーソドックスでとても美しい。奇をてらうことなど全くなく、上品そのものと言うべきかも知れない。舞台装置も衣装も基本的に写実的だが、落ち着いた色調なので目に優しい。登場人物の動きや振る舞いも自然で、音楽の邪魔をすることがない。

●第一幕では、大法官の屋敷が風情ある石造りの建物と中庭として描かれ、背景には青々とした木々が配される。そしてこれらが、照明の当て方や色調によって表情を変え、時間の経過や登場人物の心境の変化を見事に表現する。また細部の拘りにも目が離せない。建物の壁面には人間の顔をあしらった手水舎。庭中央にはテーブルと椅子。そしてその脇には「ナインピン」(ボーリングの先祖?)のピンとボール。といった具合。ここが、ウェルテルがシャルロットが初めて出会う運命の場所なのだ。衣装の面では主役女性2人が素晴らしい。シャルロットは照明の加減でピンクとも薄いブラウンとも見えるドレス、ソフィーは柔らかいイエローのドレス。

●第二幕はヴェッツラーの街。大きな石で組まれた堂々たる教会が現れる。建物は大きく威厳があり、窓のステンドグラスがとても美しい。教会に集う人々はみな一様に黒っぽい服装をしていて、アルベールもシャルロットもグレーやダークブルーの地味な衣装。ただ、ソフィー1人だけが淡いグリーンっぽい色(とても微妙な色)の衣装を身にまとい動き回っている。

●第三幕はアルベールの家。ブラウン基調の落ち着いた室内。舞台の床には下手壁際に机、中央にソファー、上手壁際にはクラヴサンが置かれ、窓からは光が差し込んでいる。このソファーでシャルロットがウェルテルの手紙を読んでいると、ウェルテルが現れ、傷つき、そして去っていく。アルベールが彼に貸すように命じた拳銃は、下手壁際の机の上に置かれた木箱に入っていた。

●第四幕のウェルテルの部屋だけが少々様子が異なる。第一幕から第三幕までが「写実的」であったのに対し、この第四幕だけは「象徴的」と強く感じられてならない。舞台奥には天井まで届く巨大な書棚と膨大な蔵書、床には天窓から漏れる日差し。そして、らせん階段の降り口。そう、ここは大きな建物の最上階なのだ。舞台中央には自ら死を選んだウェルテルが横たわる。まさに悲痛な場面であるのだが、なぜか「救い」や「希望」さえ感じさせる不思議な雰囲気に包まれたまま、静かに幕が下りた。

<歌唱・合唱について>

●今日の主役は、何といってもシャルロット役の藤村実穂子さんだ。さすが世界の第一線で活躍される方は格が違う。卓越した技術に裏打ちされた、美しくも芯が強い正確な歌唱、細かい仕草までを含めた豊かな表現など、どれをとっても非の打ちどころがない。まさに圧倒的な存在感。一人で舞台を支配するとはこういうことかと納得する。

●タイトルロールであるウェルテル役のサイミール・ピルグさんも好演と言える。爽やかなヴィジュアルで容姿にも優れ、張りがあってよく通る高音も素晴らしい。ウェルテルの純粋な心情の吐露を実に見事に表現していたと思う。

●幸田浩子さん演じるソフィーは本当に素晴らしい。チャーミングな立ち姿と美声にに思わず見とれ聴き惚れてしまう。私がウェルテルだったら、シャルロットに脈がないならすぐにでもソフィーを選ぶのに。と思ってしまうほど。

●アルベール役の黒田博さんも凄い。さすが日本を代表するバリトン。安定感ある堂々たる歌唱で観客を魅了した。もちろん、その他の歌手陣も申し分ないものであった。

●新国立劇場合唱団は本当に上手い。今日も素晴らしいハーモニーを披露。児童合唱の多摩ファミリーシンガーズも冒頭とラストの重要な役割(♪ノエル)を見事に果たした。

<指揮・管弦楽について>

●ポール・ダニエルが指揮する東京交響楽団は終始安定した演奏で今日の公演を支えていた。

(以下、余談だが)

●終演後は、近くのイタリアン・レストラン「マンジャフォーコ」で、音楽評論家の加藤浩子さんが主宰する食事会。みんなで今日の感想などを楽しく語り合う至福の時間を過ごす。なんとゲストは歌い終わったばかりの幸田浩子さん。しかも席は私の真正面。気さくで明るいお人柄でお話しもとても面白い。しっかり色紙にサインもいただいた。この後、さらにサプライズ。幸田さんを迎えに(この後、出演者やスタッフの方々のパーティがあるらしい)、サイミール・ピルグさんと菊池裕美子さん(再演演出ご担当)までが来てくださったのだ。今日は、信じられないような最高の一日となった。加藤浩子さんに心から感謝申し上げたい。

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以上

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