二期会オペラ公演『金閣寺』を観る

●2019年3月24日(日)、東京文化会館(上野)で、二期会オペラ公演「金閣寺」を観た。素晴らしい音楽と巧みな演出による圧巻の舞台。若い時から三島由紀夫氏の文学に親しんだ私にとっても、納得の公演であった。

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●原作とオペラ版の「金閣寺」はいくつかの点で異なっている。原作では全てが終わった時点での溝口(=私)の回想であるのに対し、オペラ版では溝口が金閣寺に火をつける直前に回想する形になっている。さらに原作が一人称の独白で物語が進むのに対し、オペラ版ではコーラスを用いることで、溝口の心理を浮き彫りにしながら展開していく。そして、溝口の持つ障害が原作の「吃音」ではなく、オペラ版では「手が不自由」であるとしている。3つ目の点は、溝口の人間形成に直接関係する重大な変更事項であり全く疑問なしとしないが、歌唱を通じて表現するオペラとしては、テクニカルな面でやむを得ないのかも知れない。

●本日のメンバーは以下の通り(敬称略)。 

◇指揮:マキシム・パスカル
◇演出:宮本亜門

◇溝口:宮本益光 
◇鶴川:加耒 徹  ◇柏木:樋口達哉
◇父:星野 淳  ◇母:腰越満美
◇道詮和尚:志村文彦
◇有為子:冨平安希子  ◇若い男:高田正人
◇女:嘉目真木子  ◇娼婦:郷家暁子

◇ヤング溝口:前田晴翔

◇合唱:二期会合唱団
◇管弦楽:東京交響楽団

●黛敏郎氏の音楽は現代音楽と思えないほど容易に受け入れられる。拍子抜けするほどだが、これがまた心地よくもある。ドラマに溶け込み、あるいはドラマに寄り添い、またあるいはドラマを盛り上げるという印象で、全く違和感を感じない。さらに合唱を随所に配置することで、あたかもギリシャ演劇がそうであったように(たぶん)、ソロとの対話が異様な緊張感を生み出し、まさに圧巻と言える。合唱の存在が作品全体に与える影響は限りなく大きい。

●ストーリーの流れは、ほぼ原作に沿う形で、数々のエピソードが巧みに綴られていく。有為子の自転車、父に連れられての金閣寺への初訪問、母と若い男との情事とそれに目を背けさせる父、父の死、南禅寺で垣間見た出征将校と女が行なう儀式(抹茶に注ぐ母乳!)、米兵に従い娼婦の腹を踏む事件、柏木の部屋での南禅寺の女との再会等々。三島由紀夫氏の愛読者としてとても嬉しい。ただ、原作を読んでいない人には少々厳しかったかも知れないと思う。

●宮本亜門氏の演出もとても気に入った。無駄がなく象徴的で視覚的に美しい。グレー・トーンの壁で囲まれた空間に都度都度登場する最小限のセット。木製のシンプルな部屋、階段状の物体、遊郭をイメージさせる格子などが巧みに配され、ここぞという場面で金閣寺の映像が現れ、あるいは金閣寺を表わす金色の輝くプレートが立ち上がる。戦争末期にはB29が飛来し大きなキノコ雲が沸き上がり(映像)、終戦後には昭和天皇とマッカーサーが登場し、観客を驚かす。しかし、特筆すべきは、やはりヤング溝口の起用であろう。歌手の溝口が自らを回想する際に思い描くのがダンサーの溝口なのだ。二人を登場させることで、溝口の葛藤がより生々しく表現されることとなる。最後は、金閣寺に火をつけ、銀色の大きな板にを溝口がよじのぼり、向こう側に身を投げる。このラストは衝撃的であった。なお、ラスト近くで、溝口を除く登場人物全員(出世した将校も血を流した姿で!)が一列に並ぶ。これはこれで大変面白いが、先日の「紫苑物語」でも似たようなシーンがあったような。はたして偶然であろうか。

●歌手陣は全員が実力者揃いだ。本当に素晴らしい。なかでも終始出ずっぱりの溝口役の宮本益光さんの熱演・熱唱が光る。柏木役の樋口達哉さんも、この特異なキャラクターを見事に演じた。鶴川役の加耒徹さんは初日に体調不良で急きょ降板し心配したが、今日は元気で美声を聞かせてくれてとても嬉しい。女性陣では、女役の嘉目真木子さんが体当たりの演技で圧倒的な存在感を示した。そのほかの歌手の方々も申し分ない歌唱と演技であった。そして忘れてはならないのが、ヤング溝口役の前田晴翔さん。間違いなく運動量的には一番多かったのではないだろうか。疲れを知らない切れのある動きに大きな拍手を送りたい。

●二期会合唱団は今日の主役の一人である。ドラマを支える重責を十二分に果たしたと言える。また、マキシム・パスカル氏の下、東京交響楽団の演奏も十分満足できるレベルであった。

●宮本亜門氏が演出したオペラは、いままで少々敬遠気味であったが、今日の舞台を見て考えが変わった。機会あれば次回も是非足を運びたい。

以上

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