藤倉大/歌劇『ソラリス』全幕(日本初演・演奏会形式)を観る

●2018年10月31日(水)、東京芸術劇場コンサートホール(池袋)で、藤倉大(ふじくらだい)氏作曲のオペラ「ソラリス」を観た。藤倉大氏(1977~)は日本を代表する現代音楽作曲家の一人。この「ソラリス」は2015年フランスで世界初演されたもので、今回の公演は演奏会形式という形ながら日本初演となる。現代音楽と言っても全く違和感はない。演奏時間は約90分間(休憩なし)、この間、終始緊張感が途切れない濃密で不思議かつスリリングな時間を過ごすこととなった。記念すべき公演に立ち会うことが出来たのはとても嬉しい。

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●このオペラの原作は、ポーランドの作家スタニフワフ・レム(1921~2006)による同名のSF小説(1961出版)。この小説はSF作品の金字塔としてだけではなく、その域を超えた普遍的なテーマを扱う偉大な文学作品として多くの読者に支持されている。かくいう私もその一人。1972年に飯田規和氏訳の「ソラリスの陽のもとに」(ハヤカワSF文庫)を読んで衝撃を受け、そして最近、このオペラの予習を兼ねて沼田充義氏による新訳「ソラリス」(ハヤカワSF文庫)で読み直し、改めてその内容の深さに驚嘆したばかり。

●まずは、今日のメンバーを確認しておく(敬称略)。

◇ハリー:三宅理恵 
◇クリス・ケルヴィン:サイモン・ベイリー
◇スナウト:トム・ランドル
◇ギバリアン:森雅史
◇ケルヴィン(オフステージ):ロリー・マスグレイヴ

◇指揮:佐藤紀雄
◇管弦楽:アンサンブル・ノマド

●原作のストーリーをご紹介しよう。この小説「ソラリス」は人間が未知なる存在と接触(=コンタクト)する話。「ソラリス」とはとある惑星の名前。この星は原形質状の「海」で覆われており、その「海」は物理法則では説明できない理解不能な現象を示すことから、それ自体が高度な知性を持った巨大な生命体ではないかと考えられ、長年にわたり研究の対象となってきた。研究者の一人であるケルヴィンもこの「ソラリス」を観測するステーションに赴くが、ここで異様な事象が起こっていた。船内に決して居るはずのない何者かがいるのだ。そして程なく、ケルヴィンの目の前にもかつて自殺に追いやった妻のハリーが現れる。「ソラリス」の「海」は人間の脳から記憶や妄想さらに邪念さえも読み取り、物質化し「幽体」として送り込んでくるのだ。しかし、それが悪意によるものなのか善意によるものなのか、意図したものかそうでないか、全く分からない。当初はケルヴィンにとって気味の悪い存在であったハリーも、次第に愛おしくなっていく。一方ハリーは自分がコピーであることに気付き、自殺を試みるが「不死身」であるがゆえに果たせない。ついには、ケルヴィンに睡眠薬を飲ませ、彼が眠っている隙に、自らの意思でニュートリノ破壊装置により消えてしまう。あとに残されたケルヴィンはいかに。という流れだ。
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●ステージ上には、13~14人ほどの小編成のオーケストラが載り、そのすぐ後ろには縦横1m×5m、高さ数十㎝ほどの台があって、その台の上に4人のソリスト(役名で左からハリー、ケルヴィン、スナウト、ギバリアン)が並ぶが、一般的な演奏会形式とは異なり、彼らの服装はセーターにスラックスというラフなもの。セーターの色は、ハリーとケルヴィンは白、スナウトは赤、ギバリアンは黒で、ケルヴィンだけが灰色のマフラーを首にかけている。今、ラフと言ったが、ステーション船内の服装と見えないこともない。

●オペラ作品は、全部で5つのパートから構成されており、原作のストーリー展開にほぼ忠実に、と言うよりは原作の中での重要なエピソード、例えばハリーがドアを素手で打ち破る場面、液体酸素を飲んで自殺を図る場面等を巧みに繋ぎあせながら、異様な緊張感を維持しつつ進行していく。演奏会形式なので舞台の構図は一切変わらないが、唯一照明でアクセントが付けられる。

●藤倉大氏が作る音楽は原作が持つ雰囲気にとても合っている。弦楽器が奏でる繊細な高音、管楽器が鳴らす咆哮、チェレスタが発する柔らかな金属音、マリンバ、ティンパニー、大太鼓、銅鑼(どら)等様々な打楽器が繰り出す打擲音、そしてステージ外のスピーカーから聴こえてくる電子的な効果音等が、恐怖や不安、苦悩や葛藤、一時の安堵、失望と落胆、そして最後は新たなる覚悟を適切に表現していくのだ。

●4人の歌手陣も好演であったと思う。しかし熱演と言うのとは少々違う。一人ひとりが各々の役柄を十分に理解し、音楽的な面のみならず、スピリチュアルな面を含め的確に演じ切ったという印象だ。なかでもハリー役の三宅理恵さんは表現力という点で抜きんでいたように感じた。なお、オフステージのケルヴィン役は、専ら彼の内的心理等を独白のように語るが、立体感ある秀逸な手法。


●管弦楽のアンサンブル・ノマドも素晴らしい。「ノマド」(=遊牧・放浪)の名に相応しく、型にはまらず柔軟でしなやか、見事な演奏を披露した。

●終演後はステージ上に藤倉大氏自身も登場し観客に一礼した。今後益々のご活躍をお祈りしたい。

●2015年の世界初演時、このオペラは、世界的なコンテンポラリーダンサー/振付家である勅使川原三郎氏の演出により上演された。YOUTUBEでその一部を視聴することができるが、とても興味深いもの。是非、この演出でフル・オペラを観てみたいと強く感じた。

以上

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