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zoom RSS 新国立劇場オペラ公演「魔笛」(ケントリッジ演出)を観る

<<   作成日時 : 2018/10/11 23:01   >>

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●2018年10月8日(月・祝)、新国立劇場でモーツァルト作曲のオペラ「魔笛」を観た。本公演は新たに世界的なマエストロ大野和士氏をオペラ部門の芸術監督に迎えた2018〜19シーズンの幕開けを飾るもの。演出はケントリッジ氏による人気プロダクション(2005年、モネ劇場初演)。待望の日本での公演となる。ケントリッジ氏が創る舞台はとてもユニークだ。ステージには舞台装置らしきものは何もなく、投影される映像だけで全てを表現していく。その精緻さ、テクノロジー水準の高さは驚くべきもので、懸念していた物足りなさやチープさとは全く正反対の圧倒的なクオリティの高さ。また、映像表現の中に込められたケントリッジ氏のメッセージにも共感するところが多い。もちろん、歌唱もオーケストラの演奏も素晴らしく、今日は大満足な一日となった。

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●まずは、本日のメンバーを確認しておこう(敬称略)。

◇指揮:ローランド・ベーア ◇演出:ウィリアム・ケントリッジ

◇ザラストロ:サヴァ・ヴェミッチ 
◇タミーノ:スティーブ・ダヴィスリム
◇弁者・武士U:成田眞  ◇僧侶・武士T:秋谷直之
◇夜の女王:安井陽子  ◇パミーナ:林正子
◇侍女T:増田のり子 ◇侍女U:小泉詠子 ◇侍女V:山下牧子
◇童子T:前川依子 ◇童子U:野田千恵子 ◇童子V:花房英里子
◇パパゲーナ:九嶋香奈枝  ◇パパゲーノ:アンドレ・シェエン
◇モノスタトス:枡嶋唯博

◇合唱:新国立劇場合唱団
◇管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

●続いて、演出、歌唱・合唱、指揮・管弦楽にちぃて詳しく見て行こう。

【演出】

●時代の設定は19世紀。場所はアフリカ。3人の侍女が扱うカメラが発するフラッシュ音と煙で序曲の終了及び物語の始まりが告げられるが、この「カメラ」こそ今回の演出を解き明かす最大の鍵となる。カメラは文明の象徴であり、観客はこのカメラを通してドラマを観ることになる。ステージ上に何もないのは当然かも知れない。このステージはカメラの中の暗い空間を意味するものだからだ。

●観客が暗い空間の先に見るもの、言い換えれば、この暗い空間に投影されるものは、黒地に白い直線・曲線と点からなるアニメーション、木炭で描かれたドローイング(素描)、影絵など。これらの映像が、曲や登場人物、その場のシーン等に合わせて目まぐるしく展開する。序曲では望遠鏡、プリズム、気球等が線画で登場、タミーノを襲う大蛇は人間(3人の侍女?)の腕のシルエットで表し、タミーノが絵姿のアリアを歌うときにはパミーナの横画を描いたカメオのようなものが空を飛ぶ。夜の女王のアリア「怖がらないで。好ましい若者よ」では満天の星空やそれを横切る流れ星が出現し、パパゲーノとパミーナの「愛を感じる男たち」の二重唱では満月と三日月が合体、タミーノが魔法の笛を吹くとサイ(動物の)が懐(なつ)く。

●ザラストロのアリア「おお、イシスとオシリスの神よ」では三角形の中に目がある印(フリーメーソンのシンボルマーク)が現れ、夜の女王のアリア「地獄の復讐が」では更に煌(きら)びやかな光のショーとなり、パパゲーノが「娘っ子か恋女房」を歌うときには大きなワイングラスにワインが注がれる。タミーノとパミーナの火の試練では燃え立つ炎の、水の試練では激しい洪水の映像が映し出される。パパゲーノが自殺を試みる場面では絞首台が用意され、これに続くパパゲーナの「PA,PA,PA」の二重唱では卵から多くの小鳥が飛び立つ。そして、試練に打ち勝ったタミーノとパミーナが手を取り合い進む先には「大きな目」。といった具合だ。

●よくよく考えてみれば発想自体は常識的で珍しくもないと思われた方もいるかも知れない。確かに一理ある(次に述べることを除き)。しかし、舞台の各場所に1ミリの狂いもなく正確に投影する技術力により、視覚的なインパクトは限りなく大きく、観ている者を圧倒する。今後の演出の一つの方向を示すものであることは間違いなかろう。

●なお、ラストでタミーノとパミーナが「大きな目」に向かって進む時、突然、パミーナのドレスが4〜5m長くなった。私は最初、これも映像による表現によるものと思い驚嘆した。しかし、後日、公園関係者の方から映像でなはく人間系の仕掛けによるものとの情報を得た。映像かと思わせるほど、見事な投影技術だったということか。

●ここで重要なことに触れねばならない。冒頭でも述べた「演出家としてのメッセージ」に関わることだ。「魔笛」の初演は1791年。フランス革命が勃発した僅か2年後。この作品を「啓蒙思想に基づく市民革命時代のオペラ」と捉えることは既に定説と言える。しかし、ケントリッジ氏は、さらに一歩踏み込んで、市民革命がもたらしたネガティブな面にも目を注ぐ。すなわち啓蒙主義の象徴とも言えるザラストロに関し、その「独裁性」「暴力性」「偽善性」、そして「男尊女卑的」「人種差別的」な側面に警告を発しているのだ。ザラストロが「この神聖な殿堂には復讐などない」と朗々と歌うとき、背後に移るのは何と「サイ狩り」の光景(実写映像)。銃を持った二人の男がサイを撃ち、苦しながら死に至るサイの何とも痛ましい姿。「常識的な映像」が続く中で突然現れた異様な場面に大きな衝撃を受けた。ザラストロへの違和感を表現した演出自体はもちろんほかにもあるが、ケントリッジ氏の切れ味の鋭さはさすがである。

●さて、冒頭で「ステージ上には舞台装置らしきものは何もなく」と書いたが、若干補足が必要だ。実は、平面的な背景(中央部分がくり抜かれたもの)が舞台前方から後方に向かって、遠近法的に並べられている。このバロック・オペラ風の仕掛けは、ケンブリッジ氏自身が語っているようにカメラの蛇腹を連想させるものでもある。もう一つ、3人の童子が登場する際に乗っているのは、気球でも雲でもなく「黒板」。この「黒板」は度々登場し、投影のスクリーンにもなる。何を象徴しているかは理解できなかったが、非常に効果的に使われていたと思う。

●衣装はヴィクトリア朝時代をイメージしたものらしい。男性はダンディな背広姿で、女性は優雅で上品なドレスを着て登場する。夜の女王や3人の侍女も黒ではなく薄い色のドレス、ザラストロも彼に使える者たちも、男女とも地味な制服などは来ていない。ステージがモノクロ・トーンであるだけに、こうした衣装は対照的でとても美しい。

●音楽面でも珍しい演出があった。アリアや重唱の間に、モーツァルトのいろいろな曲の断片をピアノ演奏で入れるというもの。選曲も良くなかなか物白い。拍手のタイミングがとりづらいとの指摘もあり、なるほどと感じる場面もあったが、大事なところではしっかり拍手をすることができたので違和感はなかった。

【歌唱・合唱】

●歌手陣は全員素晴らしい歌唱を披露してくれた。夜の女王役の安井陽子さんは女王に相応しく圧倒的な歌唱力で劇場全体を支配し、パミーナ役の林正子さんは柔らかくしなや歌声で観客を魅了、パパゲーノ役のアンドレ・シェエンさんは小気味の良い演技力が光り、パパゲーナ役の九嶋香奈枝さんの弾けるような魅力には驚いた。超豪華な三人の侍女(増田のり子さん、小泉詠子さん、山下牧子さん)や、三人の童子(前川依子さん、野田千恵子さん、花房英里子さん)も申し分なく、その他出演者の方々も好演した。

●三澤洋史さん指導の下、新国立劇場合唱団もいつも同様に高いレベルを示した。さすがだ。

【指揮・管弦楽】

●指揮のローランド・ベーア氏は、東京フィルハーモニー交響楽団を良くまとめ、素晴らしい演奏を聴かせてくれた。挿入曲を弾いたピアニストの方、生の効果音を担当した打楽器奏者の方の活躍にも感謝したい。

<追記>

●今日は、会場でオペラ仲間のご婦人2名にお会いした。休憩時間や終演後にお互い感想を語り合うのはとても楽しい。お一人からは、私が行けなかった「加藤浩子さんの魔笛予習講座」(朝日カルチャーセンター)の資料コピーをいただいた。上記の内容には、この資料からヒントを得たものも多い。その知人の方と、加藤浩子さんに心から御礼申し上げたい。

以上

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