イキウメの演劇公演『ミッション』を観る

●2012年5月12日(土)、シアタートラム(三軒茶屋)で、「イキウメ」の演劇公演『ミッション』を観た。とても面白い。今回の作品は、所謂SFではない。前々回(散歩する侵略者)、前回(太陽THE SUN)とは異なり、SFを期待した観客にとっては、少し拍子抜けけだったかも知れない。しかし、イキウメにとって、SFとは、表現手段の一つ(たぶん)。今回の作品は、SFという特殊な設定を排除することで、よりメッセージ性が強まったように思う。もちろん、その分、「遊び」の部分が少なくなった感もあるが、私は十二分に楽しめた。
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●「イキウメ」は、2003年に旗揚げされた劇団。主宰は前川知大(まえかわともひろ)氏。作・演出も手がける前川氏の作品は、「身近な生活と隣り合わせに異界が現れるスリリングな世界観を特徴とし、日常に潜むセンス・オブ・ワンダーを描く」とされる(HP)。この表現に誇張はない。私は、最近では、『散歩する侵略者』(その時の記事はこちら)、『太陽THE SUN』(その時の記事はこちら)とも観ており、前川氏の才能というか、異能ぶりに、正直感嘆している。

●まずは、出演者を確認しておこう(敬称略)。今回の特徴は、いつものメンバーに加え、箱根円舞曲の井上裕朗さん、野田秀樹氏の舞台などで活躍する太田緑ロランスさんが参加していることだ。実に豪華な布陣と言える。

◇渡邊亮   神山清巳(神山家の次男、総合商社勤務)
◇浜田信也  神山清武(清巳の兄、父の工場を継ぐべく外の工場で修行中)
◇井上裕朗  神山司朗(父、町工場を経営する熟練技術者)
◇岩本幸子  神山香依(母、専業主婦)
◇安井順平  神山怜司(司朗の弟、専業主夫)
◇太田緑ロランス 怜司の妻、インテリアコーディネーター
◇伊勢佳世  持田喜美(清巳と同じ病院に入院している患者)
◇盛隆二   片倉肇(清武の友達)
◇森下創   脇坂三治(ホームレス)
◇大窪一衛  大河原和夫(怜司の教え子)
◇加茂杏子  益子真知子(怜司の教え子)

●ネタバレにならない程度に、ストーリーを追ってみよう(でも気になる人は、次の段落から読んでいただきたい)。清巳は、若くて優秀な商社マン。任された仕事は自分以外にはできないと自負しバリバリ働く毎日。ところが、ある日、裏山から転がり落ちた拳大の石が頭を直撃し、入院してしまう。幸い怪我は軽く10日程度で職場に復帰したが、仕事は同僚に奪われていた。失意の中、清巳は、次第に一風変わった叔父の怜司に惹かれていく。怜司は、専業主夫の傍ら、「世界からの呼びかけに対し行動で応える」、それを自らの使命(ミッション)と考え、一見奇妙な行為を自ら実践していた。彼が師匠と敬うのは、自然体で生きるホームレス。怜司に従う少年少女の弟子もいる。ある時、弟子の少年が、世界からの呼びかけに応えようとして、ある事件を起こしてしまう。はたして、窮地に立った怜司は使命を貫くことができるのか。怜司に共感を抱き始めていた清己はどういう行動をとるのか。こうした物語が、清巳の父、母、兄、そして怜司の妻を巻き込んで、展開していく。

●今回の作品には、言わば「生き方」に関わる2つの対立軸が示されている。現実的且つ常識的に生きる父と、純粋且つ直感的に生きる怜司。前者は堅実な生活者として確かに説得力があり、一方、後者は変人としか思えないものの何故か気になってしかたがない。ちょっと大げさに言えば、生活者以前の1人の人間として「存在することの意味」を問いかけているように思えるからだ。「存在することの意味」というのが漠然とし過ぎているならば、「世界あるいは他者との接し方」と言っても良いかもしれない。

●しかも、この対立軸は、全く相いれないものでもない。事実、両極の2人を取り巻く者たちも、ストーリーの前後によって立ち位置に変化が生じたり、揺れ動いたりするし、両極の2人でさえ、絶対的な存在とは言えない。

●こうした対立軸は、現実の社会においても、数多くあるはずだ。いや、1人の人間の中でも、この対立軸が存在し、常にこの間を行き来しているのだと思う。そうした意味で、この作品が示すテーマは、あまりにも重い。

●余談だが、この作品の中で、病院の窓から手を振った清巳に気を取られた持田喜美が交通事故に合い、同じ病院に入院してくる場面がある。予想に反して、彼女のその後については特に描かれない。個人的には、こちらを追っていくストーリー展開もあっても良いのではないかとも思う。伊勢佳世さんのファンというのも理由の一つだが・・・。

以上

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