二期会オペラ公演『ドン・ジョヴァンニ』(モーツアルト)を観る

●2011年11月23日(水・淑)、日生劇場(日比谷)で、二期会(公益財団法人東京二期会)によるオペラ公演『ドン・ジョヴァンニ』を観た。オペラを生で観るのは本当に久しぶりだが、やはり本物は素晴らしい。ちょっと大げさに言えば、舞台芸術としてのクオリティの高さを改めて実感という感じだが、そもそもオペラは、一度はまれば、純粋にエンタテイメントとして楽しめるのだ。
画像


●物語の舞台はスペイン。タイトルそのまま、騎士にして稀代のプレイボーイ「ドン・ジョヴァンニ」が主人公。従者のレポレッロを従えて各地を回り、口説いた女性は数知れず、落とした女性の数は何と2000人を超える。対象範囲は欧州各国に及び、年齢、髪の色、風貌・体格を問わない徹底ぶり。しかも、しっかりと女性たちのリストを作成しているというのだから驚く。今宵も、ドンナ・アンナの家に忍び込むが抵抗され、逃げる際に出くわした父の騎士長を殺してしまう。その後も、結婚を目前に控えた新婦の村娘ツェルリーナを巧みに誘惑したりと本領を発揮。そうこうするうちに彼の悪行もみんなに知れ渡ることとなり、ドンナ・アンナ、彼女の許嫁ドン・オッターヴィオ、かつて騙した女性ドンナ・エルヴィーラ、ツェルリーナの婿となるマゼットたちに追い詰められていく。ドン・ジョヴァンニは、自分が殺した騎士長の石像をほんの冗談のつもりで晩餐に招待するが、何とその像がこれを受けたかのような動きをする。晩餐に現われた石像は、ドン・ジョヴァンニに悔悛を迫るが、彼はこれを拒み、ついに地獄に落とされてしまう。喜劇とも、悲劇とも、ばかばかしいとも、奥深いとも言えるストーリーだ。

●まずは、メンバーを確認しておこう(敬称略)。なお、配役はダブルキャストとなっていて、以下は、私が観た11月23日のもの。

【スタッフ】
指揮: 沼尻竜典
演出: カロリーネ・グルーバー
装置: ロイ・スパーン
衣裳: メヒトヒルト・ザイペル
照明: 山本英明
演出助手: 家田 淳
舞台監督: 大仁田雅彦、飯田貴幸
公演監督: 三林輝夫

【キャスト】
ドン・ジョヴァンニ 黒田 博
騎士長 長谷川 顯
ドンナ・アンナ 増田のり子
ドン・オッターヴィオ 望月哲也
ドンナ・エルヴィーラ 佐々木典子
レポレッロ 久保和範
マゼット 北川辰彦
ツェルリーナ 嘉目真木子

合唱:二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル
管弦楽:トウキョウ・モーツァルトプレイヤーズ

●序曲が始まると、すぐに舞台に動きがある。雷鳴・豪雨の中、現在風の服を着た若い男女が、雨をしのごうとドン・ジョヴァンニの屋敷に駆け込んできたのだ。この男女は、一応客人として食事を振る舞われるが、そこへドンナ・アンナ、騎士長らが次々と登場し、いつしか、2人はドンジョヴァンニの世界に引き込まれ、劇中の人物、マゼットとツェルリーナになってしまう。何とゾクゾクずる面白い演出なのだろう。

●舞台装置も非常に凝っている。屋敷の部屋には、岩山の洞窟の前に横たわる裸婦の大きな絵が飾られているが、この絵が消えると、額の向こうは、やはり全く同じ屋敷の部屋になっていて(テーブルの配置も同じ)、さらに、その屋敷の部屋には同じ絵が飾られていて、その絵が消えると、額の向こうには、またまた全く同じ屋敷の部屋になっている。この3重、いや、舞台の幕の絵も同じ裸婦の絵だから、劇場全体では4重の空間の中を、登場人物たちが自在に行き来する。まるで、だまし絵を見ているような不安と快感が入り交じった不思議な気分。額が少し傾いていることもあって、何だか眩暈がしてきそうだ。

●村人たち、いわいる「その他大勢」の扱い方は、極めてユニークだ。通常であれば(とっても、今まで私が観たものということだが)、普通の田舎風の衣装を着た男女が登場するはずだが、今回は、全身白い衣装に身を包み、白く化粧を塗った者たちがこの役割を担う。彼らは、無表情のまま、音も立てずにゆっくりした動作で動き、そして静かに舞う。蝋人形のようにも、影のようにも、ゾンビのようにも見える不思議な存在だ。確かにヴィジュアル的には印象的で美しいが、オペラ全体の雰囲気を左右しかねない重要且つ危険な要素にもなっている。勇気ある演出と言えるのではないか。

●出演者は、歌も演技も抜群にうまい。いかにも「悪(わる)」といいった感じのドン・ジョヴァンニ役の黒田氏、小心で小ずるいレポレッロ役の久保氏、ドン・ジョヴァンニへの思いが揺れ動くドンナ・エルヴィーラ役の佐々木さん、可愛く小悪魔的なツェルリーナ役の嘉目さん、不器用で愚直なマゼット役の北川氏、したたかな女性ドンナ・アンナ役の増田さん、善人で正義感あふれるドン・オッターヴィオ役の望月氏など、皆、ドンピシャな配役と言える。

●さて、ドン・ジョヴァンニという人物の描き方はどうだったか。多くの女性の心を弄んだ女たらしで、加えて殺人まで犯した大悪人、だから厳罰として地獄に落ちて当然。と、とらえているかと言えば全くもって否である。確かにドン・ジョヴァンニは、女性たちをしきりと誘惑するが、女性たちもまた、同様に彼を誘惑しているように思える。本来であれば、父殺しや裏切りへの復讐に燃えて、ドン・ジョヴァンニへ敵意をつのらせる場面でさえ、そこで歌われるアリアの歌詞とはうらはらに、仕草や表情は彼に対する想いを隠すことはできない。見ている側としては、マゼットやドン・オッターヴィオが気の毒になってしまうほどだ。さらに、地獄に落ちて二度と現れないはずのドン・ジョヴァンニが、しぶとく亡霊(?)となって出てくる。これらから明らかなように、今回のドン・ジョヴァンニは、「悪役」というよりは、悪魔的な魅力に溢れる人物として、むしろ肯定的に描いているように思う。

●200年も前にヨーロッパで書かれたオペラが、今、日本人によって日本で上演され、多くの観客を魅了する。さぞやモーツアルトも驚いているであろう。やっぱりオペラは面白い。

以上




ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック