地点上演実験『トラディシオン/トライゾン』(出演:安部聡子・山田せつ子)を観る

●2011年9月4日(日)、シアタートラム(三軒茶屋)で、地点上演実験Vol.4『トラディシオン/トライゾン』を観た。出演は、俳優の安部聡子さんと振付家/ダンサーの山田せつ子さんの2人。本公演は、演劇とダンスの共生は可能かという問いへの答えを探ろうとする一連の意欲的な企画、というより正に「実験」の4回目。単なる演劇とダンスのコラボという設定を超え、知的好奇心を大いに刺激する魅力的なステージであった。
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●「地点」とは、演出家の三浦基氏が代表を務め、京都を活動の拠点とする演劇ユニット。ホームページによれば、多様なテクストを用いて、言葉や身体、物の質感、光・音などさまざまな要素が重層的に関係する演劇独自の表現を生み出すために活動しているとのこと。劇作家が演出を兼ねることが多い日本の現代演劇において、演出家が演出業に専念するスタイルが独特。俳優陣としては、本公演に出演した安部聡子さんのほか、石田大氏、窪田史恵さん、 河野早紀さんなど。

●ただ、本公演については、過去3回とは異なり、三浦氏は演出ではなく、監修という立場をとる。チラシによれば、演劇とダンスの共生というこの難題への取り組みにギブアップした三浦氏は、演出を降板し、全て2人に委ねることとしたのだという。もちろん、全部を真に受ける訳にはいかないが、経緯としては大変興味深い。

●使用するテキストは、ジャン・ジュネ(1910-1986)の『・・・という奇妙な単語』と題するエッセイ。ジャン・ジュネは、フランスの代表的な非権力の作家。父親は不詳、母親には捨てられ、少年のころから泥棒や乞食をしては、逮捕・投獄されることを繰り返し、後年は、兵士としてパレスチナ解放運動にも身を投じるなど、異色の経歴を持つ。このエッセイは、ジャン・ジュネの唯一の演劇論だという。なお、翻訳・構成は、立教大学教授の宇野邦一氏による。

●さて、公演の様子はどうだったか。この『・・・という奇妙な単語』を軸として、舞台は、とてもシンプルに進んでいく。阿部さんが、言葉を発し、山田さんが身体を動かす。それは、同時であったり、交互であったりするが、お互いに明確に連動していたり影響し合っていたりする感じはあまりしない。お互いが、テキストから触発されたイメージを、「声」として、一方は「動き」として独自に表現し、その結果、ステージ上には、微妙な関係性とも、関係性の拒絶とも思える不思議な雰囲気が立ち込める。

●阿部さんが発する言葉には力がある。言葉の音節の切り方を自在に変化させることによって、普段に聞きなれた言葉が、全く別の言葉に聞こえ、新たな意味が吹き込まれるような感覚が全身に走る。ただ、テキストの内容自体については、そもそもジャン・ジュネの戯曲をまともに読んだこともない私にとって、これを理解するのは容易ではない。しかし、言葉の断片断片を繋ぎ合わせていくと、「現代における演劇とは、死者を生き返らせ、そして再び死なせること。だからこそ、墓地の中に間に劇場を建てよ」ということが、少しずつ分かってくる。

●とするならば、山田さんのダンスは、蘇った死者の踊りなのだろうか。彼女ののダンスは本当に素晴らしい。手首、肘、膝、足首など、体の全ての関節がそれ自体生き物のように自在に動き、且つ、それらが体のひねりや回転と合わさって、時に優雅に、時に素早く舞っていき、観る者の目を奪う。特に、後半、40分ほど経過したころだったろうか。舞台左後方から右前方に向かって進みながら、音もなく、しなやかに踊る場面は、まさに「これこそ山田さんの真骨頂ともいうべきもの」で、これを観ただけでも今日来た甲斐はある。

●終演後のアフター・トークには、最終日ということもあってか、出演者本人である阿部さんと、山田さんが出てこられ(他の回は多彩なゲストが登場)、貴重な話を聞くことができた。特に印象に残ったこととしては、山田さんの以下の発言。

①ダンスと演劇の時間性の違いに関して、「ダンスはシーンの連鎖であり、一方演劇は丁寧なきかっけを積み上げる」。

②三浦氏の「今日の公演の中で演者として特に充実していたと感じた場面は?」との質問に対する回答として、「自分のダンスは舞踏がベースであり、舞踏においては、時間の中で身体がどのように変容していくかが重要であって、一つの場面を切り取って、いけてるとかいけてないとかを言うのは意味をなさない」。

●今日の公演は、冒頭に述べたように、演劇とダンスの共生への試みである。はたして答えはどうだったのだろうか。山田さんは、もとより、ソロのダンス公演においても、言葉の力を十二分に認識し、その言葉と真正面に対峙する人だ。そういう意味で、彼女のダンスは、相当程度演劇の領域に踏み込んだものだと思っていた。もちろん、その印象は今でも変わらないが、本公演を観て新たに感じたこと、それは、「それでも、演劇とダンスとの間には、まだ埋められない溝、越えられない壁があるのではないか」ということだ。皮肉と言えば皮肉ではあるが、そもそも、安易なコラボではなく、真剣勝負のコラボはそう簡単なことではない、という当たり前のことに気付いただけかもしれない。でも、こうした試みは、是非、これからも続けてほしい。

以上

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