青☆組『パール食堂のマリア』を観る

●2011年8月6日(土)、三鷹市芸術文化センターの「星のホール」で、青☆組の演劇公演『パール食堂のマリア』を観た。とても味わい深い作品であった。こういう作品が、現代において新たに作られ、上演され、そして世代を超えて観客を獲得していること、まずは、このことをとても嬉しく思う。
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●青☆組とは、吉田小夏さん(劇作家・演出家・俳優)が主宰する劇団で、10年の歴史を持つ。上演するのは同氏のオリジナル作品だ。

●舞台は、昭和47年の横浜をモデルにした、とある港町。ここに一軒の小さな洋食屋「パール食堂」がある。店主や娘たち、見習いコック、そして店に集う様々な人。この作品は、切なくも心温まる彼ら彼女らの群像劇だ。昭和47年という時代。既に戦後30年近くたち、日本は高度成長を遂げている。しかし、一方で、まだあちこちに終戦・敗戦の傷跡も残っている。今から思えば、歴史のエアポケットのような不思議な時代だ。

●ここに登場する人物は、皆、心に傷を抱えている。しかも、その傷は、米兵と日本人女性との間の混血児問題一つとってみても、あまりにシリアスなものだ。だから、だれもが当然悩みそして苦しむ。しかし、彼ら彼女らは、自ら懸命に生きるだけではなく、家族はもとより他の者への優しい気持ちを失うことはない。ここに、吉田小夏さんの「人間に対する信頼」が確かに読み取れるし、だからこそ、多くの観客の共感を得ることができるのだろう。

●もちろん、昭和47年、それは極めて有効ではあるが一つの時代設定の選択に過ぎない。本作品のノスタルジックな雰囲気は確かに大きな魅力ではあるが、テーマ自体は時代を超えたもの。形や質は変わろうが、どんな時代でも人々は悩み苦しんでいるからだ。「無数の」「無名な人」に光を当て、彼ら彼女ら一人ひとりの心情や言動に思いを巡らせることを通じて人間存在の真実に迫ろうとする、吉田小夏さんの作品、少なくとも本作品の醍醐味はここにあると思う。登場人物の設定が多少作為的・作られすぎという印象もなくはないが、そもそも、演劇作品とはそういうものと思えば気にもならない。

●最後になるが、物語の進行上、重要な役割を果たす猫と街娼Mについて一言。この猫は、何度も死んでは生き返りながら、人々の営みを見守っている。また、歌を歌いながら立つ伝説の街娼Mの何と気高いことか。彼女もまた、時代を超えた存在といえる。この作品が、一種、寓話的、神話的、そして宗教的とも言える雰囲気を醸し出しているのは、題名の「マリア」に加えて、この猫、そして街娼Mによるところが本当に大きいと思う。

以上

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