阿佐ヶ谷スパイダース『荒野に立つ』を観る

●2011年7月18日(月)、シアタートラム(三軒茶屋)で、阿佐ヶ谷スパイダースの演劇公演『荒野に立つ』を観た。なんとも不思議な作品だ。実は、今このブログを書いているが7月24日(日)だから、既に一週間ほど経っている。でも、なかなか筆が進まない。分からないことが多すぎて、未だに頭の中がぐるぐる回っているのだ。でも、記憶はどんどん薄れていくし、まずは書き留めておくしかない。
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●阿佐ヶ谷スパーダースは、1996年に旗揚げされた演劇ユニット。長塚圭史氏(劇作家・演出家・俳優)、伊達暁氏(俳優)、中山祐一朗氏(俳優)の3人およびスタッフからなる。劇団員はおらず、公演ごとに実力があり役柄に相応しい役者を招き集めるプロデュース方式をとる。長塚氏の信念は、「時代は変わっても物語だけは普遍である」ということらしい。だから、その作品はあくまで「物語性」にこだわり、笑いやパフォーマンスのみによるものとは一線を画す。作品が描く対象は、親子関係や恋愛感情といった等身大の人間関係など。現実世界と虚構世界の中間ほどの世界として表現する。ホームページなどの記載をまとめると、ざっとこんな感じだ。

●今回の作品の出演者(敬称略)は、安藤 聖、川村紗也、黒木 華、斉藤めぐみ、佐藤みゆき、伊達 暁、中村まこと、中村ゆり、中山祐一朗、長塚圭史、初音映莉子、平栗あつみ、福田転球、水野小論、横田栄司の面々。

(以下は、若干のネタバレあり)

●舞台設定は、いたってシンプルだ。奥行きを最大限利用しこちら側に突き出たような印象を与える縦長の形。この舞台を観客席が凹型に囲む。舞台は、四段ほどの段差があり、後方から二段目には木が一本立っている。この「何もない」シンプルな舞台の上で、机や椅子や座卓などが置かれたり取り払われたりしながら、全ての場面が演じられて行く。場面と場面の境界線は曖昧で、観客の想像力や感性が相当程度要求される。ただ、劇の進行につれて自ずと分かってくることだが、この曖昧さ自体が、本作品のテーマとも深く関わる本質的な事柄なのだ。

●主人公は、安藤さん演じる朝緒。近所のスーパーでレジ打ちをしている若い女性。夫の佐藤(伊達氏)とはうまくいっておらず、父(中村氏)と母(平栗さん)がいる実家に戻ってきている。朝緒は、ふとしたことから、不思議な世界に迷い込み、ここで、高校時代の担任教師(横田氏)や、当時の友人の玲音(中村さん)、田端(黒木さん)、そして美雲(初音さん)、さらに目玉探偵A(長塚氏)、同B(福田氏)、同C(中山氏)とその秘書(水野さん)らに出会う。探偵たちからは「目玉を失くしたのは君か」と尋ねられ、朝緒は、半信半疑ながら、探偵たちとともに目玉を探す冒険に出ることになる。

●夕闇が支配する不思議な世界は、実家と直接つながっていた。だから、実家の中を部屋から部屋へ普通に移動している最中に突然迷い込んでしまうのだ。ここでは、夏カレーを得意メニューとするカレー屋(川村氏)があったり、潮干狩りが行われたり、新聞配達人(斎藤さん)がひたすら走り回っていたり、朝緒の代わりに代理人として玲音が、朝緒が貢ぐ男の代理人として探偵Bが、各々の役割を演じていたりと、少し奇妙なことが当たり前に起きている。

●朝緒は勿論、担任教師も含め、この不思議な世界に迷い込んだ者たちは、皆、一人ひとり現在そして過去に家庭内での人間関係でシリアスな問題を抱えているように思える。はたして彼らは出口を見つけることができるのか。朝緒の父母たちは、朝緒を探しにこの不思議な世界に入り込むことにした。朝緒は父母たちと再び会うことが出来るのか。そして、重要地点「七差路」にたどり着いた者は自分が進みたい道を選ぶことができるのか。正に、チラシに書かれている通り、現実世界から非現実世界への異色の冒険譚と言えよう。

●この作品の中で語られるさまざまな事柄は、「象徴」として理解されると思う。しかし、正直なところ、執拗に出てくる「夏カレー」、事前にアサリを撒かれた「潮干狩り」、あるひとの代わりに演じる「代理人」などが、いったい何を意味しているのかは、今一つ良くわからないままだ。無理やり屁理屈で説明を付けられないこともないが、もう少し考えてからにしよう。

●ただ、一つはっきり言えることは、この作品が、「我々が普段住んでいる世界は、決して盤石でも安定的でもなく危ういもの」であって、「常に別の世界への入り口がぱっくりと口を開けている」ということを、観る者に伝えようとしていることだ。だから我々は常に「荒野に立って」いるとも言える。陳腐といえば陳腐なメッセージとも捉えがちだが、これを真正面に伝えるのは実は容易ではない。しかし、この作品は、その容易でない目論見に十二分に成功しているように思う。見事な場面展開と洗練された会話を通じて、少なくとも、私は、感覚的にも理屈的にも「十二分に」納得した。

以上

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