イキウメ『散歩する侵略者』を観る

●2011年5月14日(土)、シアタートラム(三軒茶屋)で、人気劇団「イキウメ」の演劇公演『散歩する侵略者』を観た。噂には聞いていたが、想像をはるかに超える面白さ。演劇を観てこんなに興奮したのも久しぶりだ。
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●「イキウメ」は、2003年に旗揚げされた劇団。主宰は前川知大(まえかわともひろ)氏。作・演出も手がける前川氏の作品は、「身近な生活と隣り合わせに異界が現れるスリリングな世界観を特徴とし、日常に潜むセンス・オブ・ワンダーを描く」とされており(Wikipedia)、劇団サイトにも同様の記載がある。この言葉には少しも誇張はない。

●出演者は次の通り(敬称略)。全員が個性的で魅力にあふれている。
  伊勢佳世 ・・・ 加瀬鳴海(真治の妻)
  窪田道聡 ・・・ 加瀬真治(鳴海の夫)
  浜田信也 ・・・ 桜井(記者・元警官 船越浩紀の後輩)
  岩本幸子 ・・・ 船越明日美 鳴海の姉
  安井順平 ・・・ 船越浩紀 明日美の婿 警察官
  盛 隆二 ・・・ 車田医師
  森下 創 ・・・ 丸尾 フリーター
  坂井宏充 ・・・ 長谷部 丸尾の友達
  大窪人衛 ・・・ 天野光夫 中学生
  加茂杏子 ・・・ 立花あきら 看護学生

●日本海に面した小さな港町。鳴海と真治は、別居ぎみの若い夫婦。真治は縁日の日に行方不明となり、3日後に警察に保護されたが、全く別人のようになっていた。個々の記憶はしっかりしているし、言葉もしゃべれる。しかし、言葉の意味する概念を失っているのだ。だから、家族の関係も全く理解できない。そうした真治も、毎日、散歩と称して町を徘徊するにつれ、次第に「普通の人間」らしくなっていく。夫婦の間にも、失っていた絆のようなものが再び芽生え始める。

●一方、町では、発見された直後の真治のように、言葉の概念を失った者が多数現われるようになっていた。真治の徘徊と何か関係があるのだろうか。UFOを目撃した人も数多くいる。老婆が息子夫婦を刺殺した後、自殺するという凄惨な事件も発生した。この町で、いったい何が起きているか。こうして、芝居は、緊張を高めつつ、スリリングに、そして時にユーモアセンス抜群の台詞を交えながら、テンポよく展開されて行き、そしてラストには感動の結末が・・・。

●ネタバレを避けるため多くは語れないが、この作品から強く感じること。それは、概念を失うことの恐怖。記憶とは何か。人格とは何か。すなわち人間存在の危うさだ。なんと根源的で重いテーマなのだろう。しかし、決して難解になることなく、一見SF風の奇想天外なストーリーを借りながら、観客の直観に鋭く切り込む形で強烈なメッセージを伝えているのだ。怖いけど面白い。面白いけど奥が深い。奥が深いけど難しくない。正に、センスオブワンダーと言えよう。

●この作品は「恐怖」が前面に出されているが、一方で「希望」も示されている。概念として「失って良いもの」と「失ってはいけないもの」、自ずとそれらに気付くことになるからだ。大きな代償を払い「愛」という概念を取り戻した真治は、はたして世界を救えるのだろうか? 

●芝居の進行方法も見事というほかない。ステージ上には、グレーを基調としたソファー、テーブル、本棚、診察用のベッドなどが置かれているが、この舞台設定を変えることなく、複数の場所、複数の時間が、すべてここで演じられる。ステージ上にいる人物が、想定される場面が変れば(例えば、病院から明日美の家へ)、もうすでにいないことになる。その変わり目は不思議に連続していて違和感はない。ステージ空間を多重的に使う驚異の進行方法といえる。

  
●我々は、普段、当たり前の世界を当たり前にしか見ていない。しかし、感性を磨き、視点を変えることで、今まで見えていなかった物が見えてくることもある。「イキウメ」の示す世界は、こうしたことへの大きなヒントを与えてくれるものだ。これからも目が離せそうもない。

以上

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